3.話は流れる・・・話
その後、二人は再会を喜び合い(俺は一応初対面だが…)そのまま馬車に乗せ、王城へと連れて行った。
「すいません、こんなに汚い服で…」
「いや、君はどんな姿でも可愛いよ」
二人は顔を赤らめる。
けっっっして俺が言ったわけじゃない…はず。
馬車の中で、しばし沈黙が流れる。
その後、俺たちはこれまでの話、舞踏会の話で盛り上がった。
「・・・で、私が悲しみに暮れているとき、魔法使い様が現れたんです」
「それで君はあんなに美しいドレスを」
ディズニー映画版も混じっているのか…。
「魔法使い様が、夜零時を過ぎると魔法が解けるから、と言われたことを思い出し、あのとき急いで帰ってしまったんです」
どこか楽しそうに言う。
「あの晩は、私の中で人生最高の日でした」
「これからは、毎日が最高の日々さ」
そんな王子様風のキザっぽい台詞を口にしたのは、実は王子ではなく、彼女に惚れてしまった俺自身かもしれない…
そうこうするうちに、馬車が王城に到着した。
俺とシンデレラが降りると、後ろの城門で何事か騒がしくなっていた。
俺たちが近づくと、門番に止められている二人の女性と老女がいた。
それを見て、シンデレラが俺の背後に隠れた。
「「「シンデレラーー!!!!私達を入れなさーーーい!!!!」」」
大声で叫ぶ三人。
彼女の継母と義姉か?
王子の婚約者シンデレラの”身内”ということで、対応に戸惑っている門番兵たち。
「こ、怖いです…」
俺の背後で小さくつぶやくシンデレラ。
彼女をかばいながら俺は剣を抜いた。
「ホーロ、ホーロ」
突然どこからか二羽の白い鳩が飛んできた。
そして鳩たちは、いかにも安くしつらえたパーティー用のドレスを着た義姉二人の肩にとまった。
次の瞬間、
「「ギャーーーーーー!!!!!!!!!!!」」
鳩たちが二人の目を突き始めた。
両目とも突かれ、二人の目から大量の血が流れる。
二羽の鳩たちはくちばしを真っ赤に染めたまま、何事もなかったように飛び立ち、今度はシンデレラの両肩にとまった。俺は剣を構えた。だが、鳩たちに彼女を攻撃する様子はなく、「ホーロ、ホーロ」とただ鳴くだけだった。
周囲の人々は唖然とした。
「あ、え、えっ…あっ…」
シンデレラ自身も何が起こったのか分からず慌てている。
「ざまぁ〜だな」
思わず俺の口からこぼれた。
いや、正確に言えばその言葉は俺の言葉ではない。王子自身が言ったものだった。
俺はそのままシンデレラを連れて、その場を離れた。
次の日。
今日、結婚式が行われる。
王子の俺は上品な白い衣装に着替える。
王子用の金色の宝冠を被り、胸には色とりどりのいくつもの勲章。
着替え終わった俺は、シンデレラの部屋に入った。
シンデレラの花嫁衣裳は、すその長い透き通るような水色のドレス。頭には銀色に輝く宝冠。真珠の首飾り。そしてガラスの靴。魔法ではない。すべて本物だ。
美しい。思わず見惚れてしまう。
二人で立ち話をしていると、慌てたように側近の一人が部屋に入ってきた。
「お、王子!窓から外をご覧ください!!」
わけが分からなかったが、とりあえず外を見る。
「きゃーーーああああああ!!!!」
外の光景を見て、シンデレラは顔を伏せた。
無理もない。
王城内からでもよく見える少し離れた丘に、人だかりができていた。
その丘の上にそびえ立つ木の枝に、人がぶら下がっていたからだ。
首吊り自殺か?
あの継母のようだった。
そのすぐ傍で呆然としている女性二人。
二人とも松葉杖姿で、両目に眼帯をしていた。
あの義姉たちだろう。
「私のせいでこんなことに…」
涙を流し、地面に泣き崩れるシンデレラ。
俺は、震える肩にそっと手を置く。
「君のせいじゃない」
後ろから優しく背をさする。
こんなに美しく、心優しい人のせいなんかじゃ…
ーいや、待て。違う!!
俺の体の中の王子が叫んだ。
ーこんなのあの人じゃない!
王子、何を言っているんだ!?この人こそ、愛するシンデレラじゃないか!
ー違う! あの人は優しいけれど、身内の死で泣くほど家族を愛してはいない。
何を言っているんだ! お前だって、三晩しか一緒に・・・いなかっ・・た。
いや、待て。たしかに何かがおかしい。何かが…
俺は泣き崩れているシンデレラに名前を尋ねる。
「ねぇ。もう泣くのはお止めなさい。教えてほしいことがある。君の名前は?」
シンデレラは泣くのを止め、上目遣いに俺を見上げた。
「王子様、なんでそんなことを急に?」
可愛く首をかしげる。
「つまり何と言うか、君の本当の名前、本名を教えてほしいんだ。通り名とかではなくて…」
と、俺は答えた。
「私の名前はシンデレラ。亡くなった父がつけてくれた名前なんです」
そう言って、なぜか急に笑い出すシンデレラ。
やはり何かがおかしい。何かが引っかかる。
俺は急いで頭をフル回転させる。
『 絶対物語を壊さないこと 』
あの少女、いや神の言葉を思い出す。
まさか・・・・
こいつは『偽物』なのか!!!!
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