mint green

春嵐

mint green

 たいして、意味のある恋でもなかった。縮退していくコミュニティのなかで、たまたま余っていた2人のつがい化。よくあるやつ。


 後から聞いた話だけど、ふたりとも高嶺過ぎて、誰もくっつきにいけなかったらしい。その結果コミュニティ内でいわば "置きに行く" プレイが発生し、そしてわたしと彼が余った。


 互いに初恋だったけど、初々しさはなかった。コミュニティ内の雰囲気から、ふたりとも断りきれなかっただけで。お互いに、相手を運命の相手だとは思っていなかった。だからデートもしない。同じ場所に住んでいるので、ときたま一緒にコンビニに行く程度。


 彼のいない部屋。


 ミントグリーンの匂い。さっきわたしが開けた。冷蔵庫漁った戦利品。彼が遺していったもの。


 彼の好きなコンビニ商品。名前が、ミントグリーン。それだけ。一昔前に流行ったなんか挟むやつとかもちもちしたミルクティーとか、なんかそういうやつの系統。彼が好きで、コンビニでよく買っていた。


 ばかみたいで、ちょっと笑った。彼がいないのに、ミントグリーンの匂いが錯覚させる。

 彼はいない。だから、ミントグリーンの匂いを代替にしてる。


 お互いに、相手を運命の相手だとは思っていなかった。彼がいなくなるまでは。そう思ってた。いまさら、運命の相手だと。思い直した。いまさら。彼はいないのに。


 コミュニティは縮退してブラックホールの彼方に消え去り、もう跡形もない。唯一残された彼も、今はいない。わたしひとりの部屋。


 ミントグリーン。


 彼がいる気分になると思って開けたのに。そんなことはなかった。


 彼のことが好きだった。彼のごはんが食べたい。彼の隣にいたい。ミントグリーンをほおばりながら、彼のことばかり考えてる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る