魔女と葛藤

 電車での帰り道、肉を斬るあの感触と骨に当たった痛みを思い出して手が震えていた。

 彼女を斬ったという事実が今更になって襲ってきた。

 彼女との別れ際。

「また来るかは君が決めて、私が強制出来るわけじゃないから。でも、出来るなら君にこの命を捧げたい」

 その言葉を呟くように伝えられたけど、僕はどう受け止めたらいいのかわからず黙って彼女に何も返さずただ背中を向けて、二人で来た道を今度は一人で帰った。

 電車の窓に映る自分の顔はどこか疲れてる様に見えた。

 僕はあんなことを何回繰り返せば終わるんだろうか......

 あの老人たちはどれだけの時間、彼女を傷つけ続けてるのだろうか。

 僕もあの中に入って戦い続けるんだろうか。

 彼女の苦悶の表情と悲鳴をいったいどれだけ聞き続けて、耐え続けなければならないのか。

 それだけ耐えてまで僕がやらなければならないことなのだろうか。


「――駅、――駅」

 僕の最寄り駅に着き、立ち上がろうとするとうまく力が入らなくてよろめいた。

 手すりを掴んでぐっと耐えると、慌てて電車から降りた。

 降りた瞬間背後でドアが閉まる音がした。

 電車が走り去っていく音をそのまま動かずに聞き届けると振り返って線路に向かって胃の中のものをぶちまけた。

 彼女が傷つき続ける光景が未だ、フラッシュバックする。

「おぉぉうぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 胃は空っぽになっても頭の中まではすっきりはしなかった。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る