魔女と海と、青い擬き

「ねぇ、海に行かない」

 彼女がいつもの場所で僕を待つなり言う。

「学校は?」

「そんなのサボれば良いじゃない」

 僕は彼女のその言葉にひとつため息を吐くと。

「良いよ、行こっか」

僕らは昼休みが終わるチャイムを待って学校から出発した。


「海ってなんで蒼いか知ってる?」

 彼女は波が押し寄せる場所で、バシャバシャとその押し寄せる波を踏むように裸足を海に埋めては掘り出す作業を繰り返す。


「何か話があったんだろー?」

 なおも波と戯れるのに夢中な彼女に、打ち寄せる波の音に負けないように少しだけ声を大きくして問いかける。

「んー、なんとなく君と海に来たかっただけだよー」

 彼女は普段とは違ってどこか楽し気に返す。

「そもそもさー。君の名前を僕は知らないんだけどー」

「私の名前は――よー」

 丁度よく彼女の名前は波の音でかき消されてしまった。

「きゃっ、今の波は少し大きかったねー」

 なんて彼女は波の大きさに一喜一憂する。


「次はどこいこっかー?」

 するとまた唐突に彼女がと次の行き先を尋ねてくる。

 僕はため息をつくと今日はとことん付き合うよというと彼女は嬉しそうに「やった」と言った。


 それから映画を一緒に見て、彼女と別れたのはもう日が暮れて空が群青色になってからだった。

 自室のベッドに倒れこむと、ただひたすらに疲れたなという疲労感が襲ってきた。


 それから何度か同じ場所でお昼を食べるような間柄になったある日の昼休み。

 いつもの場所に行くといつも通り彼女が居て、僕からは何も言うことはなく隣に座ると自分の弁当を広げた。

「どこかのお休みに水族館に行かない?」

 彼女のまたもや唐突な提案に食べていた、おひたしの鰹節が気管に入ったのかむせる。


「お前はまた唐突だな」

「あはは、じゃあ水族館に行くよ」

「なんで水族館?」

 僕が疑問に思い彼女に尋ねると彼女はポケットからスマホを取り出してそこにぶら下がっているストラップを見せつける。

 いつものマグロのストラップだ、今日は「ネタ用」と書かれた張り紙がされているバージョンだった。

 「私はマグロが大好きなので」

 (マグロは水族館にはいないのでは......?)

 「なんでもいいけど、今度は水族館な。りょーかい」

 僕がそっけなく答えると、頬を膨らませながら。

 「なんで、全然嬉しそうじゃないのよ」

 と、ぷりぷりしている。

 「とりあえず行くんだから、いいじゃんか」

「そーだけど」

 彼女は少し納得いかないと風でいながらも、約束したからねと小指を差し出してくる。

「「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたら、はーりせーんぼんのーます、ゆびきった」」

 ふたりでゆびきりを唱和してからめていた小指を離した。


 なんとなくその空に浮いた小指に物寂しさを感じながら、彼女には伝わらないようにポッケにしまった。


 

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