第12話 佐和鳶一縷容疑者?県警の捜査

茂の飛び降り自殺から3週間経った日の午前9時に県警は、やって来た。

茂の司法解剖の結果と、それに伴う疑惑の捜査をしていたし、部隊長の方でキャンベラの処分については、これ幸いとばかりに彼女を残酷で狂暴なタリバンが息衝いているスーダンに更迭した。

 医療センター面会室では、白いミーティング用テーブルを介して県警の刑事が二人、陶子と対峙していた。

口火を切ったのは、若い方の刑事で、マル暴上がりのイカニモ、というふうな厳つい目付きで無言の内に相手を圧倒していた。

「先ず、化捜研の結果、体内から覚醒剤の成分が出てきました。」容疑者はキャンベラと茂なのに何時の間にか陶子が取調べを受けている様相だった。

 「コカインやハシシ、これらはヘロインの成分です。」腰椎を起立させて、脊柱起立筋を刺激し、脊柱を立たせていた。

「これについて、彼が疲れたとか、倦怠感があって鬱状態に陥っている姿を観たとか、心当たりは有りませんか? 覚せい剤の入手経路を知りたいのです。」言い終わって面会室の事務用椅子にに座っている右足を組み直した後で白い出入り口ドアの曇りガラスを観た。

 目付きの悪い刑事が二人とも立ち会った陶子の顔目掛け下から上へ顔面を抉る様な目付きで、心当たりが有っても無いと言わざるを得なかった。

「私は心当たりありませんが、茂は覚せい剤をしていたんですか?」

不安げな表情は、対峙している刑事二人にも分かった。

 しかし、女医のキャンベラは薬物など、簡単に入手出来るだろうし、コカインやマリファナなんかも何の疑いも無く、薬剤師は彼女に渡すだろうなと、考えていた。

「不安なのは分かりますが、今からご夫婦の家宅捜査を開始します。いや、夫婦では無いか・・・捜査員が今、貴女の家宅捜査を実行しているところですが、何か言いたい事はありますか?」イエ、アリマセン・・・。と、幽かな発生をしたのは、余りにもの緊張により喉の奥底がカラカラに乾燥していたからだった。息が洩れた程度の発音だった。

 口呼吸をせざるを得ない。刑事二人が医療センターにやって来てかれこれ二時間余りは経っていた。

 極度の緊張感がそうさせていたからだ。

睨み続けていた二人の刑事は屈めた骨盤を立て直した。

「アハハハハハー。」リハビリ会場からの生きた声・声・声・・・。

 席を外した若い方の刑事が開けた刹那に聴こえて来た痴呆気味のカツコ婆ちゃんの屈託の無い笑いに一緒になって笑った昨日の午前が懐かしい・・・。

 ピピピッ、着信音が鳴る! 孤独だった・・・。

夫婦はこんな時どうするんだろう? 

 籍を入れてないから夫婦と呼べない?茂に対しての糟糠の妻・・・。 

妻と呼べないなら何で私を呼んだの? 来週から夫婦になるから?

 ようやく腰を上げた刑事は県警までの同行を促し、陶子はそれに素直に従った。

もう医療センターではリハビリテーションの午前の部が始まっていた。

「母趾内転筋は足裏の親指から足底、踵までの筋肉ですが、そこを右足を振り出す時に踏ん張りましょう? そうしたら腰は右に流れませんし右肩も下がりませんから・・・。

 一縷は、ストイックに指導をしていた。事業所も順調だ。

独立した一縷は間も無くここを去る。

 八束の歩容を改善させる為の始動だったが、一途に孤独だった。

イチルの心にはポッカリと穴が開いていてそこから岐阜県の冷たい風が吹き込み心の襞を凍らせる・・・。

 壮絶な長嶋茂の飛び降り自死・・・。

一縷ダケでなくセラピスト全員が衝撃を受けていた。

 末梢神経に血液が滞り指先まで冷たい。

リハビリ会場は暖房が掛かっているが、イチルの心中はとてつもなく冷えていた。

 何を考えているんだろう・・・作業療法士のミンナは?

同僚や患者と話しをして笑うが、何処か冷めていて笑っている自分を違う自分が観ていた。

 存在が無かった。

笑っているのはアバター? 兎に角、寒かった。

朝食を摂ってない事にこんなにの体温に差が出て来るなんて・・・著しい影響力だった。

 一縷の心を暖めてくれる筈の直美は、イ一縷の身体の外で彷徨っていた。


「離婚して

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