第4章 悪役令嬢は目を付けられたくない

第67話 悪夢!?

 軽快な音楽。人々の楽しそうなざわめき。美味しそうなご馳走と焼き菓子、ケーキやジュースが並んだテーブル。色とりどりのドレスとタキシード。


 (ん?・・・これは一体・・・)


 なんだか現実味が無くてフワフワしている。だってこんな世界はあり得ない。


 (これは夢だ・・・私、夢を見てるんだな)


 どうして分かったかって?


 だって、ここにいる人達も、ご馳走も、建物だって、ゲームに出てくるイラストの様でカラフルだけど、ぺったりしていて全く立体感が無い。


 まるで極彩色のアニメ映画の中に、私だけ実写でいるようなのだ。


 (なんだ?これ・・・)


 私は空色のドレスを着て椅子に座っている。もちろん婚約者のディーン様を待っているのだ。あの方・・・まだ会場にいらっしゃってないのかしら?


 (いやいや、これって夢だよね?)


 夢だと分かっている自分と、現実の様に思っている自分が交差している・・・そんなおかしな感覚・・・。


 今日はアンファエルン学園の1年生の終業式。夕方からはダンスパーティが始まった。私はディーン様とダンスを踊るのを楽しみにしているのよ。邪魔なリリーのドレスは、使用人に命令して絵具で汚してやりましたわ。ドレス無しではパーティに来れないでしょうよ。おほほほ・・・!


 (いやいやいや!何を考えてるのよ!ドレスを汚すなんて、サイテーでしょうが!)


 「どういう事っ!?」


 怒りと困惑のあまりに声を出すと、ちゃんと喋る事が出来た。


 「夢だよね?これ!私、リリーのドレスを汚したりなんかしないよ!」


 しかし、いつの間にかアニメの様だった風景は、ちゃんとした実写の世界になっていた。


 「え?何?なんで?・・・現実!?」


 驚きにと困惑で椅子から立ち上がり辺りをキョロキョロ見回すと、入口の方から見知った顔が歩いてくるのが見えた。


 (ディーン・・・!)


 ディーン様ですわ!なんて美しいのでしょう。リリーに邪魔される事無く、やっとディーン様とダンスが踊れ・・・


 「だぁかぁらっ!そうじゃなくってぇ!」


 私は飲み込まれそうになる思考を取り戻すように声を出した。


 (私の中に誰か居る!・・・そうよ、そんなのアリアナに決まってるじゃない。アリアナの気持ちが勝手に私を支配しようとしてる?)


 追い出す様に頭を振って顔を上げた時、目の前にディーンが立っていた。


 「ディーン様・・・」


 私は次の言葉が出なかった。何故ならディーンの顔は今まで見た中でも一番冷たく目は怒りに燃えていたから。そう・・・まるでこの世界で最初に会った時のように。


 (どうして・・・?ディーンとは友達として、ちゃんと仲良くなれたのに。婚約だって・・・婚約は・・・あれ?)


 「アリアナ」


 金属の様に冷たく無機質な声で私の名を呼ぶディーンの声に、私の体は凍り付いた。


 (知ってる・・・この場面知ってるよ!。これってゲームの・・・1年最後のダンスパーティーでのメインイベントじゃん!)


 「ちょ、ちょっと、ディーン様、待って・・・」


 だけどディーンは私の言葉なの耳に入らぬと言うように無視して、


 「アリアナ!僕は君をリリー嬢に対する嫌がらせ、暴言、器物損壊などの罪について、ここに告発する!証人はこの場所にいる全ての人だっ。そしてそれと同時に君との婚約も、今この時をおいて破棄させてもらう!これは提案じゃない。決定だ!」


 真っすぐ私に人差し指を突き付け、周りにも聞こえるような大きな声でそう言った。


 「嘘だぁ~~~~!!!!」


 私は耳をふさいでしゃがみ込んだ。すると誰かが私の手を取って引っ張った。驚いて振り向くとそこにはグスタフが立っていて、


 「さぁ、アリアナ嬢。私と結婚しましょう。幸せにしてあげますよう、うっひっひ」


 そう言って、いやらしい目を私に向けた。


 (ひっ!)


 恐怖に顔を背けると、今度は目の前にイーサンが立っていた。彼は私の腰を抱いて引き寄せると段々顔を近づけて来る。


 「ご褒美をくれるんだろ?」


 (や、や、や、やめ・・・)


 「やめろぉ~!!!」


 叫びながら手を振り回し、気が付くと私はベッドの上で起き上がっていた。全身に汗をびっしょりかいて肩で息をしてる。


 しばらくそのまま放心状態で・・・


 (夢・・・だよね?夢に決まってる・・・けど)


 額の汗を寝間着の袖で拭って、ふか~く溜息をついて、


 「な、・・・なんちゅう悪夢なのっ」


 私は両手で頭を抱え、ベッドの上で突っ伏した。

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