第9話 とにかく謝るが勝ちよ!

 まだ教室がざわざわと騒がしい中帰り支度をしていると、数学の先生に代わって担任のエライシャ先生が教室に入ってきた。


 「今日の授業は終わりですが、皆様に一件ご連絡がございます。春のピクニックの事です。」


 先生がそう言うと、わっとクラスから嬉しそうな声が響いた。


 「この学園では、一年生は毎年5月に春のピクニックを行っています。日程は来週の木曜日。服装は自由ですが動きやすい恰好で来るように。持ち物は特にありません。昼食やお茶もこちらで用意してますからね。いつも教室に来る時間に校庭に集まり、そこからは馬車で行きます。」


 クラス中で、「わあ、どんな服着ていく?」や「場所はどこかしら?」と楽しそうな声があがる。


 だが、私はクラスの子達とは別の意味で、興奮していた!


 (こ、これは!『ドキドキハプニングピクニック』イベントではないですか!?)


 乙女ゲームのヒロインと攻略対象が仲良くなる為のイベントで、このピクニックでは様々なハプニングが起きるのだ。


 (凄い!やっぱりちゃんとゲームのシナリオに沿ってるんだ。)


 ゲームファンとしては非常にワクワクするのだが、私はそこではたっと思い出し我に返った。


 (いやいやいや、私は悪役令嬢アリアナだよ!。ゲーム通りだなんて浮かれてる場合じゃない!)


 良く考えれば、イベントではヒロインと攻略対象の好感度は上がるかもしれないが、アリアナの破滅ルートの可能性だって高まるかもしれないのだ。


 (こ、これはなるべく巻き込まれないようにしないと・・・)そんな事を考えていると、エライシャ先生は、


 「馬車は6人乗りを6台用意します。皆様それぞれ希望があるでしょうから、組み分けはお任せします。組み分け表を置いて置きますから、今週中に書いておいてくださいね」


 そう言って、教室を出ていった。


( あ~~~、マジか・・・)


 自由な組み分けなんて、「ぼっち」にとっちゃ地獄デスヨ。地獄!。


 私は額を押さえて下を向きながら顔をしかめた。


 周りでは和気あいあいと馬車に乗る仲良しメンバーが決まっていってる。このクラスは32人だから馬車6台なら5人グループが2組できる。


 (こうなったら5人になったグループにお願いして入れてもらおう・・・)


 どんよりした気分でそう思っていたら、


 「あ、あの・・・アリアナ様?」


 「はい!?」


 後ろから話しかけられて、私はびっくりした。振り返るとそこには3人の女生徒が立っている。


 そして、その中の一人が


 「あ・・・あの宜しければ、アリアナ様、私達と一緒のグループになりませんか?」


 おずおずとそう私に言ったのだ。


 (え~と、誰だっけ?まだクラス全員の名前を覚えてないのよね)


 でもそんな事はどうでも良い!どのクラスにも天使の様に優しい子はやはり居るのだ!


 私は心の中で「イエーイッ」と叫びながら、


 「あ、ありがとうございます!まだクラスに馴染めてなくて・・・どの組に入れて貰おうかと悩んでいたのです」


 そう言うと、その女生徒も私に初めて話しかけるので緊張していたのだろう、ほっとしたように微笑んだ。栗色のゆったりとした巻き毛に、少したれ気味の瞳も栗色だ。見るからにやさしそう。


 「これで私達の組は6人ぴったりね。」


 もう一人、明るい赤毛のくせ毛をポニーテールにした女生徒が言った。ちょっと勝気そうな青みがかった灰色の瞳をしている。


 そして、もう一人は長いストレートの黒髪と黒い瞳が印象的な美人だ。背も3人の中で一番高く、スラリとしている。なぜだろう・・・?楽しそうにしている他の二人と違ってなんだか浮かない顔だ。


 でも、本当にありがたい!助かった!・・・それなのに大変失礼な事だが、3人の名前を私は全く知らないのだ。


 なので、失礼を承知で聞いてみる事にした。


 「あの・・・大変申し訳ないのですが、私はまだクラスの皆様の名前を覚えきれていないのです。宜しければお名前を教えて頂けないでしょうか・・・?」


 「まぁ!そうですわよね。アリアナ様は入学されてまだ1週間ですもの。当然ですわ!私はミリア・バークレイです。父はバークレイ伯爵です。」


 栗色の巻き毛の女生徒、ミリアはにっこり笑った。


 「私は、ジョージア・キンバリー。父はキンバリー伯爵をたまわってるわ」


 赤毛の女生徒、ジョージアはハキハキした声でそう言った。


 (ミリアとジョージアね・・・二人とも伯爵令嬢と。よし、覚えた!)


 もう一人は・・・?と黒髪の子に目を向けると、彼女はなんだか気まずそうな顔をしている。


 「ほら、レティ。あなたも早く自己紹介しなさいよ。」


 ジョージアがそう言うと、レティと呼ばれた女生徒はちょっと困ったような顔で言った。


 「あの・・・はい、私はアーキン子爵の娘のレティシアです。その・・・以前、アリアナ様とはお目にかかったことがございます・・・。」


 (えっ!?)


 ぎくっとした。アリアナと会ったって事は、それは私になる前のアリアナって事よね?


 レティシアは続けた。


 「その・・・その時私は、アリアナ様のご不興をかったようで・・・、あの・・・」


 (うあ~やばい、やばい、やばい!これはもう・・・)


 私は急いで彼女に頭を下げた。


 「ごめんなさい!その節は失礼を致しました!どうかお許しください!」


 先手必勝!昔のアリアナが何をしたのかは覚えていないが、何せ傲慢で我儘で嫉妬深い悪役令嬢だ。ろくな事はしていないだろう。とにかく謝るが勝ちよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る