第8話 もしかして「ぼっち」?
「アリアナ」
寮の門前で声をかけてきたのは、兄のクラークだった。
「アリアナ、大丈夫かい?授業はついていけてるかい?疲れたりしていないかい?お前をイジメる奴はいないかい?もしそんな事があったらすぐに僕に言うんだよ。」
相変わらず過保護な兄だ。
「私は大丈夫です。授業もついていけてます。いじめも受けてません」
「そうか、良かった」
そう言ってクラークはにっこり笑った。イケメンで優しい、ほんとに良い兄だ。
1歳年上のクラークはアリアナよりは濃いめの金髪で、やはりエメラルドグルーンの瞳をしている。背が高くて成績優秀な公爵家の跡取りは、学校でも良くモテる事だろう。
そして彼はゲームでの攻略対象の一人だ。
ゲーム中、1年生の時に現れるディーン、クラーク、パーシヴァルは、適当にやってても好感度はすぐ上がる。イベントの選択肢も簡単なものが多い。
最終的にラブの相手が決まるのは5年後なのだが、この3人は比較的攻略しやすい相手なのだ。
(クラークには幸せになって欲しいな・・・。)
アリアナが断罪される時、庇ってくれるのはこの兄だけなのだ。アリアナはそのおかげで学校を追放されなくて済む。
(ディーンとリリーが結ばれるのは、なんだかちょっと気に食わないけど、クラークなら良いかも・・・?)
よし!と私は心の中で決心する。
「応援しますわ、お兄様!」
「えっ?」
突然そう言った私に兄は理解出来てないようだったが、私がにっこり笑うと彼も笑顔を浮かべた。私達は仲良しなのだ。
そして私はその夜、方針を立て直した。
1、勉強以外で目立たない!
2、なるべくヒロインに近づかない!
3、目指せクラーク×リリー
4、ディーンと円満婚約解消!
「よし、完璧!明日も破滅回避に向けて頑張るぞっ!」
私はベッドの上で、拳を握った。
そして学園に来て1週間。
私と兄のクラークはリビングで朝食をとっていた。
私と兄は寮の3階にある一番広い部屋で暮らしている。
同じ部屋と言ってももちろん寝室は別だ。
マンションみたいな感じで真ん中に大きなリビングがある。さすが貴族の子息令嬢の為の寮だ
さらに私達の部屋は特別ルームらしく、バスルーム付きの寝室が3つ、書斎、サンルーム、さらにメイド用の部屋、シェフの為の部屋もある。
公爵の財力、恐るべし!
おかげで朝からお抱えシェフの作ったとびきり美味しい朝食を堪能できるのだ。
私は食後の紅茶を一口飲み、端に控えているメイドに言った。
「美味しいです!もしかして茶葉を変えたのですか?」
私付きのメイドのステラはにっこり笑って言った。
「はい、お分かりになりましたか!今回新物のアシュカル産の良い茶葉が入荷しましたので、お出ししました。お気に召したでしょうか?」
「とっても美味しいわ!ステラは目利きなのね」
そう言うと、ステラは頬を赤らめ、「恐縮です。」と言った。ステラはもう一人のメイドのマリアよりも若いのだが、お茶を入れるのがとても上手だ。
「凄いね、アリアナ。よく分かったね。僕の妹は素晴らしいよ。」
シスコンの兄は今日も妹を褒めまくる。
「朝食もとても美味しかったわ。スティーブンにお礼を言っておいて下さい。」
うちのシェフは本当に腕が良い!おかげで私はアリアナになってからも、食事の時間だけは幸福感でいっぱいだ。
「ところで、アリアナ。学園には慣れたかい?その・・・ゆ、友人はできたかい?」
クラークが若干、気を使いながら聞いてくる。この質問は毎日繰り返されているのだが・・・
「学園には慣れました。友人は・・・その・・・まだできていません。」
そしてこの答えも毎日繰り返されている。私自身は友人を作るよりも破滅回避の方が大事!。だからそれ程気にしていなかったのだが、兄に心配かけているのは心苦しい。
私が休んでいた一か月間で、クラス内ではすっかりグループが出来上がってしまっていた。
しかも私は公爵令嬢でこのクラスの中では1番身分が高い。意地悪をされている訳では無いのだが、なんとなく遠巻きにされている気がするのだ。
その時ハッと気づいた。
(もしかしたら、前のアリアナとお茶会やパーティーで知り合っている人が居て、避けられているんじゃ・・・)
私になる前のアリアナは、相当な我儘プラス傲慢娘だったみたいだから、その可能性はゼロじゃない。
私はゲームのアリアナの悪役令嬢っぷりを思い出し、ズンと気分が重くなった。
入学して1週間、破滅回避の事ばかり考えていたけど・・・
(お昼ご飯もずっと一人で食べているし、休み時間も一人で本読んだり考え事してる。放課後は直ぐに寮に戻るし、私って完全に「ぼっち」だわ!)
気付いてしまうと途端に寂しくなってくる。
(ちょ、ちょっとずつでもクラスに馴染んでいくようにしてみよう・・・。)
決意を新たに学校に登校したのだが・・・、結局今日も一人でお昼を食べ、休み時間を過ごした。
(そう簡単にはいかないか・・・。)
帰り支度をしながら、自然とため息が出てくる。
唯一ありがたかったのは、今日もヒロインともディーンとも出会わなかった事だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます