短短篇

秋野 瑞稀

やまない雨。

 周囲の雑音を全てかき消すような豪雨の昼下がり。傘を忘れたと走りながら叫ぶ少年、一つの傘を共有しながら歩くカップル、カッパを着た小学生。色々な人があるくこの道端でわたしは『独り』、ずぶ濡れで立ち尽くしていた。

 傘は持っている。持ってはいるけど、差す気にはなれない。

「おい、何してんの? ずぶ濡れじゃん」

 顔を背ける。

「なんだよ。……まぁいいや、ほら」

 わたしを打ち付ける雫が遮られる。

「ほっといてください」

「んー、まぁそうしといてやりたいけど、その……」

 自身が来ていた上着をわたしにそっと掛ける。

「あ……」

 それはそうだ。この雨の中、真っ白いブラウスで立ち尽くしていたらそうなる。

「あー、ほら、あれだ。とりあえず帰るぞ」

 いつまでも歩きだそうとしないわたしの手を取り、少しだけ力を入れ引く。

「お? 晴れてきたか?」

 通り雨、だったのだろう。さっきまでの地面を打ち付けるような音も消え、今度は日差しが一気に降り注ぐ。

 周囲の雑音が帰ってくる。

「おー! 見ろよ虹!」

 わたしの気分なんかお構い無しで、子どものような無邪気な笑顔で、声で、手は握ったままで。

「あ、まだ……降ってたか……」

 手を離し、あいた手でポケットをまさぐっていたが、目当てのものが見つからなかったらしい。

 そのままその手でわたしの雨を拭ってくれた。

「あ、おい!? なんで!?」

 不器用なあなたに、その優しさにわたしの雨はしばらくやまなかった。

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