短短篇
秋野 瑞稀
やまない雨。
周囲の雑音を全てかき消すような豪雨の昼下がり。傘を忘れたと走りながら叫ぶ少年、一つの傘を共有しながら歩くカップル、カッパを着た小学生。色々な人があるくこの道端でわたしは『独り』、ずぶ濡れで立ち尽くしていた。
傘は持っている。持ってはいるけど、差す気にはなれない。
「おい、何してんの? ずぶ濡れじゃん」
顔を背ける。
「なんだよ。……まぁいいや、ほら」
わたしを打ち付ける雫が遮られる。
「ほっといてください」
「んー、まぁそうしといてやりたいけど、その……」
自身が来ていた上着をわたしにそっと掛ける。
「あ……」
それはそうだ。この雨の中、真っ白いブラウスで立ち尽くしていたらそうなる。
「あー、ほら、あれだ。とりあえず帰るぞ」
いつまでも歩きだそうとしないわたしの手を取り、少しだけ力を入れ引く。
「お? 晴れてきたか?」
通り雨、だったのだろう。さっきまでの地面を打ち付けるような音も消え、今度は日差しが一気に降り注ぐ。
周囲の雑音が帰ってくる。
「おー! 見ろよ虹!」
わたしの気分なんかお構い無しで、子どものような無邪気な笑顔で、声で、手は握ったままで。
「あ、まだ……降ってたか……」
手を離し、あいた手でポケットをまさぐっていたが、目当てのものが見つからなかったらしい。
そのままその手でわたしの雨を拭ってくれた。
「あ、おい!? なんで!?」
不器用なあなたに、その優しさにわたしの雨はしばらくやまなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます