いっぱい食べる君が好き

川木

第1話 恋人になれて嬉しいけど困っちゃう

 恵はいつも美味しそうに食べる。お昼ごはんもちょっとしたお菓子一つ一つを、とても美味しそうに食べる。私は少食だからか、余計にそう言うのいいなって思ってた。

 だから告白された時も嬉しかった。あのキラキラした目で私のことを見てくれる恵のことを、私も好きだって素直に思った。そうして恋人になった。まだ数日だけど一緒にお昼を食べたりして、にこにことその笑顔を見るだけで胸が温かくなるし、一緒にいて楽しい。


 だけど困ったことがひとつだけある。彼女、甘いものが好きで、特にパンケーキが大好物なのだ。週末もお出かけに誘われたけど、パンケーキ屋に行くというもので私は断ってしまった。

 本当は私も行きたい。あまーいパンケーキを頬張る可愛い恵を独占したい。だけど私は甘いものが好きではない。嫌いではないけど、どうしても量が食べられないのだ。

 特にホイップクリーム。ケーキの後ろについているそのクリームを口に含んだ瞬間気持ち悪くなって吐き出してしまった苦い記憶がある。見た目はおいしそうと思えるけど、食べるとなると抵抗のある食べ物だ。

 そんな私なのでクリームをつかったお菓子に詳しくないのだけど、パンケーキというとホイップクリームが山ほど乗っているのが定番だろう。一緒に行って恵が食べる姿は見たい。でも自分だけ食べないというのも気をつかわせるだろう。

 だからどうするべきか。素直に好きじゃないと言えば、それを避けたお店選びになるだろう。でも恵が好きなものを食べるのが一番いいというか、それが見たいし。


「……あの、朋美ちゃん」

「どうしたの?」

「あの……無理してるなら、大丈夫だよ?」

「え? なに? どういうこと?」


 恋人になって一週間。週明けてからもまだ、正直に話すか嫌いじゃないふりをするか悩んでいた。そんな私に恵が急に深刻そうな顔でそう言ってきた。なんだろうか。普段わりとにこにこしている子なので、こう言う感じの表情も珍しいけど可愛い。

 と思いながら促すと、恵はこくんと真面目に頷いてから、私にちょっとだけ近寄った。放課後になったけど教室内にはまだ数人残っている。隣り合った席だったしもともとそれきっかけで多少は話す仲だったし、普通に話す分には問題ないけど、あまり大きな声で話すのは恥ずかしい。恋人であることを隠す必要はないけど、あまりおおっぴらにするのは気恥ずかしい。だから私も椅子ごとよせて顔を寄せて声を小さくする。


「なに?」

「うん……でも、だって、その、私が告白したから、無理に付き合ってくれてるでしょ?」

「えっ!?」


 大きな声がでてしまった。慌てて周りを見渡して、クラスメイトの視線がはなれたのを確認してから、さらにずいっと恵によって声をひそめる。


「な、なんでそうなるの? その、私……ちゃんと、好きだよ?」


 小さい声で、吐息がぶつかりそうな距離だけどなんとかそうはっきり伝える。告白された時、確かにちゃんと言ってなかったかもしれない。嬉しくて舞い上がりすぎて、自分が何を言ったかちゃんと覚えてないけど。

 だから勘違いさせてしまったのなら私のせいだ。恥ずかしいけどちゃんとまっすぐに伝えた。


 すると恵はぽっと、その健康的な頬を赤くして嬉しそうに目元を緩めてくれた。その花開くかのような笑顔に心が温かくなる。私の言葉一つで、こんなに笑顔になってくれる。それ自体が私への恋心の証明のようで、本当にうれしい。私まで頬が熱くなる。


「ほんと? ほんとにほんと? 同情とかじゃなくて?」

「本当だって。嘘ついたって仕方ないでしょ」

「そっか、そっかー。よかった」


 ほっとしたように、はにかむように恵は微笑んだ。その表情はすっごく可愛くて、抱きしめたくなるくらいだ。こんなに好きなのに伝わってなかったなんて。難しいなと思いながらそっと恵の手をとる。少しでも気持ちが伝わればいいけど。


「誤解させたならごめんね。その、こういうの初めてだし、なれてなくて」

「……可愛い」

「えっ、め、恵のほうが可愛いよ」

「えー、絶対そんなことないよぉ。でも、ふふふ、そう思ってくれてるなら、嬉しい」


 そう言って照れながら笑う恵はやっぱり文句なしに可愛い。うん、やっぱり好き。

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