MISTERO-白魔獣の怪事録-

間野暁裕

1章 小田原連続怪死事件

第1話 プロローグ~闇の中で思うこと

 闇が、蠢いている。


 言葉にしてしまえばなんとも厨二くさい表現を脳裏に思い浮かべつつ、しかして津山幸介つやまこうすけは必死の形相で木々の間を縫い駆けていた。


 夜更けの暗い森の中にあって、天井を埋め尽くすほどの新緑の隙間から僅かに射し込む月明かりのみが、彼にとっての道標である。


 とはいえ、どこをどう走ったのか、どう曲がったのか、精神的余裕を欠いた脳が正しく記憶できているわけではない。とにかく光の見える方へ向かって足を運ぶ。危機的状況に陥った肉体が、本能的に選択した行動がそれだったのだ。


 闇は―――いや、闇の姿を纏ったそれは、確実に自らの背後に迫りつつあった。


 恐怖に震えて叫びたくなる心を寸でのところで自制しつつ。対照的に、少しだけ振り返ってみたくもなる思春期特有の好奇心をギリギリのラインで諫めながら、幸介は思った。


 どうして、こんなことになってしまったのか。


【次回:オカルト研究会の二人 - 1】

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