第2話 対価と代償

「花……無事か、花?」

「……いない…のか」


「…」


「体が…痛くない」

「ここはどこだ?」

有人が見渡すと、そこはこの世ではないと直感出来る場所だった。


「やぁ!」

「目が覚めたかい?」

人の形をしたシルエットが喋りかけてきた。


「あなたは…?」

有人は戸惑いながら言う。


「僕は神様だよ」

神様と名乗る者は眩い光を放つほど神々しい。


「えっと―、僕は死にましたか?」

自分の状況を察した有人は聞く。


「天川有人君だよね?」

「話が早くて助かるよ~」

神様はポップに話しかけてきた。

「実はここから君の行動を見ていたんだ」

「かっこ良かったよ~」


「…」


「実はね――」


「っ!」

神様の一言に有人は息を呑む。


「本当ですか⁉」

「あの、あなたを何てお呼びしたら…」

有人はかしこまった様子だ。


「堅苦しいのはやめてくれ」

「僕の事は神様でも神、天帝…何て呼んでくれても良いよ」

優しく接してくれる神様に親近感を覚える。


「神様、お願いがあります」

「大切な約束があるんです」

「だから僕は――」

有人はある約束と願いを話した。


「なるほどね~」

「いいよ!」

「ただし、条件があるんだ…」

少し真面目なトーンで話す神様。


「平気です!」

「どんな事でもやります」

有人は条件を知る前に承諾した。


「ほ~」

「なるほどね、君を選んで正解だったよ」

「じゃあ早速取り掛かろうか――」


 そして時は流れ。


場所はパタゴニクス王国。

王国は建国以来初の事態に陥っていた。

近くのダンジョンが氾濫を起こし大量の魔物が発生していたのだ。

だが冒険者ギルドの緊急招集により集められた冒険者達のおかげで魔物の群れは鎮圧された。


そして現在、玉座の間にて。


「よく参った」

「此度は魔物を討伐してくれた事、感謝する」

「冒険者筆頭のお前達には特別報酬を授けよう」

「叶えられる範囲で述べてみよ」

国王は今回最も活躍した冒険者パーティーの2人を城へ招いていた。


「待ってくれ」

「俺はアーク、このパーティーのリーダーをしている」

「今回の氾濫で魔物を一番倒したのは俺だ」

「こいつの分の報酬も俺が頂く」

アークは自信満々に喋りだす。


「あのー」


「だがお前達はパーティーを組み共闘してきたのだろう?」

国王はアークの無作法を気にしていない様子だ。


「それは事実だ」

「だがこいつは男のくせに魔物の前で震えていた」

「ビビッていただけなんだろ」

アークは隣の仲間を指差した。


「いや…」


「落ち着け、アークとやら」

「…事の顛末が分かる者はおるか」

国王は近衛兵に問いかける。


「はい」

「今回探知された魔物は約1100体」

「魔物のクラスは9等級から6等級でした」

「そして討伐数はアーク殿が675体という記録で残っております」

「さらに氾濫の原因と判断されたボスクラスも討伐されています」

「よって魔物を一番多く討伐したのは彼らのパーティーで間違いありません」

近衛兵は今回の詳細を話した。


「675体⁉」

「魔物のランクは低いがあの短時間でそんなに⁉」

その場に居る者達がざわめく。


「ただそちらのアリトという者はギルドへの登録が無いようです」

「仮でもパーティーを組んでいた場合、アリト殿の討伐数はアーク殿に合算されます」

アークの隣に居たのはアリトという者だった。


「そうなんですよ…」


「だがその記録が証拠だ」

「よってこいつに報酬は必要ない」

アークは不敵な笑みを浮かる。


「だから…」


「口を慎めアークよ」

「判断するのはこちらだ」

国王は少し呆れた様子で考え事をした。


「…」


「1つ疑問なのだが」

「アークよ、お前の冒険者等級は6級だな?」

「ボスクラスを単独で討伐出来るのなら等級は…」

国王は何かに気付いた様子で言った。


「国王陛下、1つ提案があります」

すかさずアークは口を挟んだ。


「ほう…申してみよ」

アークを見透かした国王だったが話を聞く。


「俺とこいつで決闘をします」

「魔物を討伐したのがどっちか皆さんに証拠を見せるのはどうでしょう?」

その場の空気が少し変わった。


「えっ…」


「国王陛下の前で決闘だと!」

「先ほどから無礼が過ぎるのでは…」

「その者を牢に!」

近衛兵達がどよめく。


「静まりなさい!」

「父上、私この決闘見てみたいわ!」

王女殿下が初めて口を出した。


「ちょっとミラちゃん⁉」

「何を言ってるの?」

王妃は娘の意外な一面に驚く。


「はっはっはっ――」

「娘よ、戦いを好むか」

「この決闘を許可しよう!」

上機嫌に会話する親子。


「念のため防御結界を頼む」

「魔術師は結界の準備に取り掛かれ」

国王が命令すると魔術師達は魔法を発動させていた。

防御結界とはドーム型のシールドであり、ある程度の攻撃を防いでくれる魔法だ。


「ちょっとあなた本気なの?」

状況を変えられずに動揺したままの王妃。


「ただの若気の至りに過ぎんだろう」

「それに決闘とは懐かしいな」

「わしも若い頃は身分を隠して決闘に明け暮れていたものだ」

国王は少し上を向いて喋りだした。


「そうなのですか?父上」

王女は興味津々のようだ。


「あぁ、だがある日」

「防御結界を張らずに決闘をした時があった」

「そしてわしの放った魔法が城の壁に当たってしまってな――」

「っ!」

国王陛下は陽気に喋っていた様子から一変。


「あなた……後でお話があります」

王妃は笑顔で国王陛下を黙らせた。


「陛下、防御結界の準備が整いました」

近衛兵が話しかける。


「よ、よしそれでは決闘の合図を近衛兵に頼む」

冷や汗が止まらない国王は静かに見守る。


「承知致しました」

「ではアーク殿とアリト殿の決闘を始めます」


「…」


「始め‼」


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