第15話 お誘いからの最終調整

アヤネは葵との電話を終えてからサティの工房に行った。




カランカラン




「いらっしゃい、アヤネ。今日はどうしたのぉ?」




「あ、うん。今日はね、提案があって。」




「提案?」




「そう、提案。」




アヤネは葵と電話した時に話したことをサティに伝える。




「なるほど、ユアが、1番に2層に行きたいって言って、アヤネが、じゃあオールして頑張ろうね。って感じぃ?」




「まあ、そういうことです。」




「それでぇ、私に話したのは私も一緒に攻略しようってことぉ?」




「そういうことです。」




「私にとってはぁ、とってもありがたいんだけどぉ、足手まといになるかもよぉ?」




そう、サティは生産職。戦闘力なんかほとんど無いに等しい。サティの言う通り普通は足手まといになる。




「その点は大丈夫だと思います。」




「どうしてぇ?」




「それは、そもそも私とユアがあんまりSTRに入れてないから同じくらいのSTRの持ち主が1人増えたところであんまり変わらないので。」




「アヤネもユアもAGI特化ってことぉ?」




「そう、ですね。」




「でも私ぃ、AGIもあんまり入れてないわよぉ?」




「スキルで補えるので大丈夫です。ユアがヘマしたときにも何回もお世話になったスキルがあるので。なんなら、戦わなくても通れる場所は戦わずにスキル使ってごり押すので。私は戦わずに進めるなら戦わない方を選びます。」




「そっかぁ。なら、お邪魔させてもらうわねぇ。私、生産職で攻撃も防御も出来ないから第2層なんか行けれないと思ってたけどぉ、アヤネとユアのおかげで行けそうだわぁ。ありがとぉう。」




「いえいえ。じゃあ、とりあえず29日はオールする気持ちでいてください。お仕事もあって大変かもしれないですけど。」




アヤネが仕事について心配するとサティは




「大丈夫、大丈夫ぅ。29日は大事な仕事はなかった....はずだから。」




とアヤネに説明した。




「そうなんですね。では、また。」




「うん、またねぇ。」




カランカラン




アヤネが工房から出たのを確認したサティは「やった!」と小さくガッツポーズした。






アヤネは工房を出ると暇になった。




「どうしよう。レベル20越えてから貰ったスキルの確認もしたし、することがレベル上げしかない。ユアとの差を広げれるし、2層に挑戦するときに戦力を上げといて損はないし、良いんだけど、最近、上げて20越えたし、今は良いかな。となると勉強しかないか。めんどくさいけど。」




アヤネは勉強をするためログアウトしてその場から消えていった。




その20分後、今度はユアがフィールドに現れた。




「とりあえず、2層行くダンジョンにサティさん誘ってみよ。」




流石は親友というべきかユアもアヤネと同じ目的らしい。




ユアは先にアヤネが誘っていることなど知らずにサティの工房に入る。




カランカラン




「あらぁ?ユアじゃない。今日はどうしたのぉ?」




「あの、2層に一緒に行きませんか?」




「30日のことぉ?」




「はい。」




「それなら、さっきアヤネが来たわよぉ。オッケーしといたぁ。」




「!!アヤネが来たんですか?」




「うん、20分前くらいだったかしらぁ。誘ってくれたわよぉ。」




「そうなんですね。」




「あなたたちは優しいのねぇ。2人とも誘うことを言ってないのに2人とも誘いに来るなんて。なんだか面白いわね。」




「じゃあ私はこれで。レベルでも上げようと思います。」




「頑張ってねぇ。」




「あ、気になってたんですけど、サティさんってレベル上げてるんですか?」




ユアは扉に手をかけたところで止まり、サティに問いかけた。




「私は全然、上げてないわよぉ。まだ6だよぉ。」




「やっぱり。じゃあ、今から一緒にレベル上げます?」




「私は戦えないからぁ、遠慮しておくわぁ。」




「でも、2層行くためには絶対戦うことになると思うんですけど。」




「アヤネがスキル使ってごり押しするんだってぇ。戦わずに進めるなら戦わない方を選ぶ!!って。」




「あ、アヤネだ。私が着てる装備をゲットしたダンジョンの時もあれと戦うのは面倒くさいから戦わずに進もうって言って虫の大群をガンスルーしましたからね。」




「そうなのねぇ。って...なに?虫の.....大群?」




「え?あ、はい。そうです。」




「私、虫、無理。」




「あ、じゃあ絶対に入ったらダメですよ?南の森の奥の方にあるダンジョン。虫ばっっっかりなので。」




「ひえぇぇぇぇぇ、オエッ。」




「だ、大丈夫ですか?」




「ごめん。大丈夫。想像、したら、吐き気が、した。」




「なんか、ごめんなさい。カフェ、行きます?」




「カフェ?そんなのあるの?」




「ありますよ。アヤネに連れられて入った時はビックリしましたけど。」




「じゃあ、行きますぅ。」




「案内します。」




ユアとサティは工房を出るとアヤネが教えてくれた外見がちょっとあれなカフェに向かった。




「ここです。」




2人の目に映る建物は不気味な雰囲気を漂わせ、まるで入るのを拒絶しているかのようだ。




「ユ、ユア。な、なんの冗談よ。ちゃんと案内してよ。」




真っ当な反応をするサティ。ユアは「前は私もこうだったのかな?」とか「アヤネは夜、ここに1人で入ったんだ。そっか、多分、アヤネは恐怖って概念がないんだ。」とか思いつつ、サティを引っ張ってカフェに近づく。




「ユア?ねぇ、ねぇってば!ねぇ!」




「大丈夫ですよ。私も最初はその反応したので。」




「心の準備とかはさせてくれないの?」




「え?だって、する必要がないので。」




する必要がないのは中を知っているからだ。一度も入ったことがない人からすると心の準備は必要だろう。




「ほら、行きますよ。」




ユアはドアノブに手をかけて開ける。




「ま、待ってえぇぇ.......え?」




サティは内装が目に入った瞬間、ポカンと口を開けて「え?」を連呼する。




「ね?準備なんていらないでしょ?」




「そうねぇ。一度でも内装を見れば大丈夫よねぇ。」




「席、座りましょ。」




「ええ。」




ユアとサティは店内に入っていく。アヤネと一緒に来たときに座った席にユアが座るとその対面にサティが座った。




「サティさん、そこのメニュー押すときは気をつけてくださいね。ケーキやジュースの絵に手が触れたら自動的に代金が取られるので。」




ユアはアヤネにされたイタズラ?を思い出しながらサティに注意する。




「分かったぁ。」








2人は色々なことを話しながら食べて、飲んでいく。アヤネについてだったり、得意教科だったり、恋バナだったり、会話の内容はどんどん変わっていった。1時間ほど話して気が済むとカフェから出て、ユアはレベル上げに、サティは工房に向かった。








◇◇◇


そして30日までアヤネとユアはレベル上げ、サティは工房でアイテム作り、をして過ごし、遂に29日の23:00になった。これから2時間メンテナンス兼アップデートが入り、30日の1:00にゲーム内に入れるようになる。




茜はスマホで小説や漫画を読み、アニメを見て時間を潰し、葵は勉強をして時間を潰す。サティは仕事に追われて0:30にはヘトヘトになっていたが葵ユアと茜アヤネとの約束があるため寝るわけにはいかず、お風呂に入る。




そして1:00メンテナンス兼アップデートの終了が発表され、茜、葵、サティはほぼ同時にゲーム内に入った。






◇◇◇


メンテナンス兼アップデートが終わったとき、『FSO』の運営会社の一室ではゾンビの呻き声のような気味の悪い声を出す人物がいた。




「やっど終わっだー。」




「終わっだわねー。」




今、最終調整を終えた男性とその手伝いをしていた女性だ。




「2層に行くために倒さないといけないボス、ちょっと強くしすぎたかしら。」




女性は強くしすぎたかもしれないと不安になるが男性は




「いや、強くしすぎたくらいがちょうど良いんだよ。早く攻略されたら困るわ。」




「それもそうね。」




「ああ、少なくとも今日、速攻で攻略するプレイヤーはいないさ。」




「そうね。あれを倒すためにはレベルが20は必要だものね。」




「行かれたとしてもこの8人だな。」




「そうね、行く可能性があるのはレベル20を越えてるこの8人だけね。」




「ちょっと寝る。お休み。」




「おやすみなさい。はあ、私も寝ようかしら。」




翌朝、会社の一室で死んだように寝ている2人を出勤してきた社員が発見した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る