生活するために~貴方と話すことが見つからない~
日焼け止めをしなくても明里は日中に学校に行けるようになった。
まだ支配下にいる弱い吸血鬼だったから日焼け止めが必要だったけど、今は必要なくなっていた。
支配から脱したからだ。
明里はそれでも吸血鬼であることを押さえていこうと努力した。
体育の時なんかは、相手の動きがスローで見えるし、色々とアレだったが、それをごまかした、全力で。
勉強はいつも通り。
──早く卒業したいなぁ──
明里はそう思った。
明里は久しぶりの我が家に帰ろうとすると葛葉に同行された。
「アルフレートが来ないように仕掛けを施さねばな」
「あの、アルフレートはどれだけ問題行動を起こしたんですか?」
「吸血鬼全員に嫌われる程度の行動は起こしてきた」
「オウフ」
「明里さん、エレ……葛葉さん」
クォートがやってきた。
「仕掛けやるんですよね、私も手伝います」
「ああ、頼む。明里、いいか?」
「は、はい!」
部屋の各所に、宝石らしい物体を置いていく。
そして最後に、リビングに置いた宝石に──
「明里、クォート、血を垂らしてくれ、私も垂らすからこれに」
「は、はい」
「はい」
明里は指を少し切って血を垂らし、クォートも垂らした、最後に葛葉が垂らすと、部屋の空気が変わった。
とても、心地の良いものに。
「何だろう、すごい、過ごしやすい」
「明里やクォートにとって過ごしやすいようにした。アルフレートには近づくのも困難にしてやった」
「そ、そんなに」
「失恋したとか抜かしたが横恋慕してくる可能性はあるからな、二人とも気をつけるように」
「はい」
「分かりました」
「では、私は帰る。クォート、私の大事な生徒を宜しくな」
「はい、葛葉さん」
「よろしい」
そう言って笑みを浮かべて葛葉は帰って行った。
「……」
「……」
「ごめんなさい」
「ど、どうして謝るんですか?」
無言の時間が続くと明里はクォートに謝った。
「私、いつも一人だから誰か話すとか分からないんです……」
「明里さん……」
「だから面白くなくて……ごめんなさい」
「謝らないでください」
クォートが明里の手を握った。
「話題がないなら一緒に作って行きましょう、ね」
「クォートさん……」
「私もあまり他者と話すのは得意ではないですから、気にしないでください」
「……」
「あのクォートさん」
「はい、何でしょう?」
「クォートさんのご両親は?」
「父が吸血鬼で、母が人間でした。ですので、母はもう亡くなってます」
「ご、ごめんなさい」
「謝らないでください。母は寿命で亡くなったんです、父はそれ以降誰も妻を取っていません、それほど母を未だに愛しているのでしょう」
「……一途なお父様なんですね」
「ええ」
「……私は、私の両親は何故結婚したか分からないんです、そして何故私を産んだのかも……私の名前は祖母達がつけてくれたものですし……」
「明里さん……」
「……それくらい私に無関心だったんでしょうね。両親は……もう、居ませんが」
「……」
「だから少し不安なんです、そんな親にならないか」
「大丈夫です、明里さん、そうならないよう私が一緒に居ますから」
「クォート……有り難う」
「いいえ」
クォートは客間に棺桶を置いて眠っているのを見て、明里は自室でベッドに薬を飲んで横になった。
「……一人じゃない……」
ぽつりと明里は呟いた。
今までは家族がいても独りぼっちだった。
でも今は違う、一人じゃないのだ。
遠くにある他者のぬくもりを感じながら明里は眠りについた。
翌朝、葛葉が家を訪れた。
「調子はどうだい?」
「今のところは良いです」
「はい、調子はすこぶる良いです」
「それは良かった」
そう言って鞄から血液パックと薬を取り出した。
「そろそろ無くなるだろう、補充しなさい」
「有り難うございます」
明里は血液パックを冷蔵庫に入れ、薬を自分が分かる場所に置いた。
「クォート薬の置き場所は把握しておけよ」
「はい、分かりました」
「先生、アルフレートは……」
「自棄になってヴァンピールを生み出す組織を破壊しにいったよ、手間が省けた」
「あのこの町にヴァンピールは……」
「もう居ないな」
「そうですか……良かった……」
「その女、本当に無害になったのか?」
「大丈夫だよ、明里ちゃんは個人情報を見る限り無害な子だよ」
教会所属のエドワードとクリスがやってきた。
「何のようだ?」
葛葉が変わりに前に出る。
「メリアが自由になった貴方とお話したいのだと」
「私が同行──」
「いえ、葛葉さん、私が同行します」
「クォート……」
「クォートさん」
「ワラキアの息子か」
「明里に危害を加えるなら私があいてをするまでだ」
「吠えるな若造」
「エドワード! ごめんね、二人とも。アルフレートの所為でこいつ妹さん亡くしてるから吸血鬼は敵思考が強くて」
「クリス!」
「事実だろう、ちゃんと説明しないと」
クリスの言葉に、明里は悲しげな表情になった。
「貴方もアルフレートに大切な人を奪われたの?」
「……」
「……わかりました、協力します」
「助かるよ! さぁ、車に乗って!」
車のドアを開けると、葛葉が確認して、行ってこいと送り出した。
明里とクォートは車に乗り、静かに目的地につくのを待った──
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