最後の訓練、そして作戦決行~私は貴方の花嫁なんかじゃない!~
翌日の昼、明里は血液パックの血を飲んだ後、人里離れた山奥へと葛葉に案内された。
正確には、葛葉の背中に乗せられ、ぴょーんぴょーんと飛ぶように移動する葛葉にしがみついていた。
大きな穴があった。
「この奥にヴァンピールが居る、明里は追い出した奴を一匹残らず狩りとってくれ」
「は、はい‼」
「クォートはうち漏らしがないか確認を」
「分かりました」
「では行くぞ」
葛葉がヴァンピールがいらしい穴へと入っていく。
しばらくすると、化け物──ヴァンピールが穴から出てきた。
「逃がさない!」
明里はヴァンピールをつかみ、打ち上げ、飛び上がり心臓を貫いた。
そして次出てきたヴァンピール達は白木の杭で四肢を射貫き、そのまま地面に落下するように急速で落ちていき、一体の心臓を貫くと、他のヴァンピールの心臓も貫いた。
明里は白木の杭を巧みに使いながら、ヴァンピールを仕留めていった。
二日にかけて行われたヴァンピール退治を終えると、明里は息を吐いて地面に座り込んだ。
「つかれたー……」
「よくやったぞ明里、これなら大丈夫だ、だが油断はするなよ」
「は、はい!」
「クォート」
「はい」
「お前も油断はするな」
「はい」
「決行は?」
「明日だ、休日だし、いいだろう」
「え、えー⁈」
明里は困惑の声を上げた。
「は、早すぎません⁈ それにドレスだって……」
「ドレスは既に準備済みだ、お前のサイズに合わせて」
「え」
「と言うわけで今日は家に帰ったら寝ろ!」
「えー⁈」
明里は困惑したまま葛葉に連れて行かれた。
風呂に入り、一人悶々としていると──
「あんまり入っているとのぼせるぞー」
「は、はい」
明里は風呂から上がり、体を拭いてパジャマに着替えた。
そして薬を飲み、ベッドに入った。
すやすやと眠る明里を見て、葛葉は愛おしそうに頭を撫でた。
「お前も自由にしてやる」
髪の毛を掬う。
「ネメシスと呼ばれた時に戻ろうとも私はお前を自由にしよう」
そう言って部屋を後にした。
翌日、曇りの天気、明里はウェディングドレスを葛葉の部屋で着せられて、車に乗せられる。
「ヒールが高くなくて良かった……」
「動きづらいのがさらに動きづらくなるからな、高いと」
葛葉は運転し、アルフレートの館へと向かう。
「ここからがアルフレートの領域だ、だが奴には君が見えてない、お守りの力で」
「……」
「本番一発勝負だ、行くぞ」
「はい!」
車を降り、明里はクォートにエスコートされながら館を進んでいく。
『明里、いるのか明里⁈ ええい、タリスマンの所為で良く見えない』
アルフレートの声が響き渡るが、明里は口を閉ざしたままだ。
決してしゃべるなと言われているのだ、作戦実行時まで。
わめくアルフレートを無視し、アルフレートの元へ行く。
「やっと見え……なんと!」
アルフレートは嬉しそうに言う。
「花嫁衣装とは! 私の花嫁──」
「勘違い、しないでください」
明里はそう言って、クォートの頬にキスをした。
「そういう訳だ、お前の花嫁ではない、クォートの花嫁になったのだ」
アルフレートの表情がみるみるうちに激怒に変わる。
「おのれ若造──‼」
明里とクォートは一端離れる、そして明里は距離を取る。
アルフレートが、クォートに飛びかかる寸前、ワラキアが現れて動きをアルフレートの動きを止めた。
「邪魔をするな!」
「息子を守るのが親の務めだ」
そう言い合っているのをよそに、明里は足に力を入れ勢いよくアルフレートの背中に飛びつき、首筋に牙を突き立てた。
「⁈」
アルフレートは此処で漸く目的に気づいたらしく引き離そうと行動に出ようとするが両手を塞がられ、他の手も塞がれていた。
明里は口の中いっぱいに血の味が広がるのを感じ、そして飲み込んだ。
ふっと体が軽くなる感触がした。
自分にへばりついている何かがなくなるような感触──それを感じて急いで離れた。
「明里、血は飲めたか?」
「はい!」
暗い赤から、真紅に染まった明里の目を見て、葛葉は確信した。
「アルフレート、私は貴方の花嫁にはならない! もう自由だ!」
と言ってお守りを明里は葛葉に返した。
「せっかく今回は上手くいくと思ったのに……!」
「好きでもない相手と結婚させられるなど嫌なことこの上ないぞ、まして憎い相手ならな」
葛葉はアルフレートに近づき、拳を握って殴りつけた。
アルフレートは吹き飛び、壁に激突する。
「次、明里に手出しをしてみろ。私が容赦せんからな」
「ぐ……」
「後、この町で好き勝手なことをしてみろ、貴様を殺す」
「ふ、ふふ……不抜けたと思ったらネメシスのままか……」
「よし殺す」
「せ、先生。もう此処にはようはないんだし、帰りましょう」
「明里」
ワラキアが明里に声をかけた。
「此度は作戦であったが、どうだろう? 正式に我が子と付き合ってみるのは」
「ち、父上⁈」
「え」
明里は困惑したまま言った。
「……あの、私みたいなので良いんですか?」
「勿論だともお嬢さん、貴方のような子は大歓迎だ」
「……クォートさん……」
「その……私で良かったら、結婚前提にお付き合いを……」
「よ、宜しくお願いします!」
明里とクォートは握手をした。
「二回失恋させられた気分だよ」
傷心のアルフレートはそう言って息を吐いた。
「私の時より悲惨だな」
「ああ、そうだよ。君は私をボコボコにして血を吸って私の支配から逃れたから肉体の痛みが強かったけど、今回は精神的に来るよ……」
「これに懲りたら、気に入った相手を無理矢理吸血鬼にするのはやめるんだな」
「……そうするよ」
「おや珍しい、悪童アルフレートが素直に言うことを聞くなんて」
「こんな手痛い失恋させられればそうなるよ……目の前でいちゃつかれてるし……」
少し離れた場所では連絡先の交換や、デートはいつ行うとか、不純異性交遊は駄目とか色々ワラキアも交えて今後の交際について話し合っているクォートと明里が居た。
葛葉はにやりと笑う。
「伴侶が欲しいならお前も全うな恋愛をするのだな」
「……エレナ、やり直さないかい」
「よし一発ぶん殴る」
「ちょ、ちょ、待ってくれ!」
「待たん」
葛葉のアッパーがアルフレートの顎にヒットし、アルフレートは吹っ飛んだ。
「二度と言うなよ」
ぴくぴくと痙攣しているアルフレートにそう吐き捨てると、葛葉は明里達のところへ行った。
「これで一端今回の件は解決だな」
「先生!」
「さて、帰ろうか」
「はい!」
明里は葛葉の手を取って帰ることにした。
葛葉の家は、息苦しくなくなっていた。
「息苦しくない」
「アルフレートの支配から脱したからな、奴の支配下にまだあるのなら少し苦しいはずだがそれがないということは完全に支配から抜けられたということだ」
葛葉は、ジュースとワインをグラスに注ぎ、明里の前に置いた。
「えっと、先生」
「乾杯、と言う奴だ」
「……はい! 乾杯!」
グラスを掲げて飲み干す。
明里はにこりと笑った。
「これでもうアルフレートに巻き込まれなくて済みそうですね!」
「いや、分からんぞ、気をつけておいた方がいい」
「ううー……」
「ところでクォートは?」
「はい、私のところで正式に同棲する為に手続きしているそうです」
「真面目だな……」
「先生、最初は吸血鬼になったのを不運だって嘆いたけど、今は吸血鬼になっちゃったけど幸せになってやるって気持ちでいっぱいです」
「そうだ、その息だ」
「はい、幸せになってみせます!」
二人は夜遅くまで語りあった──
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