第4話 尋問

うそだろ、いつの間に。

全身の血の気が一気に引いた。

達也はそんな俺を面白そうに見ながら、 ねえ、相沢チャン。

「お前さ、おっさんが好きなの?」

と面白そうに問いかけた。

「ち、違う!」

思わず立ち上がって叫ぶように否定する。

「違くないじゃん。こんなことしちゃってさ。」

達也はスマホをひらひらさせながら言った。

「じゃあ、お前好きでもない奴とこんなことしてんの?」

達也は口元を歪めて笑った。

「違う…。」

喉がカラカラに乾いて掠れるような声しか出ない。

「まっ、どーでもいいけど。」

達也はそういいながらスマホの画面を袖で拭いた。

「もしさ、この動画がネットで晒されたらどうなると思う?」

「は…?」

「ここ私立だし、ワンチャン退学かな。指定校推薦とか絶対無理だろーね。」

達也はわざとらしく肩をすくめた。

今対峙しているのは達也の皮を被った化け物のような気がした。

「それだけはやめてください…。金ならありますから…。」

俺は達也の前で土下座をした。できることといったらそれくらいしかなかった。幸か不幸か、そういう行為のお陰で金なら一般の高校生よりだいぶ持ってる。

頭上でくすっと笑う声が聞こえた。

そして、次の瞬間。

思いっきり頭を踏まれた。床に額を強く打ち付ける。

痛い。

あまりの痛みに顔を上げることができない。

「じゃあさ、これ、ばら撒かれたくなかったら俺の言うこと聞いてくれるよね。」

「……はい。」

「じゃあ、しつもーん。」

「……え?」

「さっきみたいに嘘ついたら即アウトだかんね。」

イタズラを仕掛けた子供みたいに達也はクスクス笑った。




「うーんと、じゃあー、これいつからしてたの?」

達也は人差し指でスマホをトントンとタップしながら聞いた。

俺は観念して正直に答えた。

「高1の夏から…。」

「へー、あの時からもうやってたんだ。すげー!」

と達也は馬鹿にしたように鼻で笑ってから、質問を続けた。

「じゃあ次はー、大体何人くらいと寝たの?」

「わかんないけど、10人は超えてる。」

「一回何円?」

「大体2から5万。」

「客はおっさんばっか?」

「好きな体位は?」


俺の口から出る言葉がいちいち面白いのか、達也は笑いっぱなしだった。

恥ずかしくて、悔しくて、情けなくて、俺は泣きそうになっていた。

一通り聞きたいことを聞けて満足したのか、達也はまた俺の前にしゃがみ込んで、俺の顎を掴んだ。

「お前みたいなやつがこんなことしてるなんて、まじで面白いなあ。」

ニコニコしながら俺の顔を見る達也が恐ろしくて、俺は目を逸らすこともできない。

なんでそんなに楽しそうなんだよ。

雨の音と時計の秒針が動く音だけ確かに流れている時間を伝えていた。

「じゃ、最後の質問。」

欠伸をしながら達也は俺の耳元でそうつぶやいた。

「お前の好きな人って誰?」

心臓が飛び跳ねる。

「…それは………。」

「別に言わなくてもいいけど?」

達也はスマホの画面をトントンと叩いた。

言えるわけがない。こんなこと。でも俺に言わないなんて選択肢は残されていなかった。

「俺が好きなのは、一ノ瀬達也、です。」

絞り出すように答える。

すると、達也は

「だよねー!」

とげらげら笑った。

「え…。」

「だって、俺が肩とか触るたびに耳真っ赤にしちゃってさあ。分かりやすー、ってずっと思ってたんだよね。」

達也は呆気にとられる俺を見て馬鹿笑いしている。

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