第五話:一緒に勉強しよー!

「はあ、なんかすげえ疲れた」


 ベッドの上。帰宅後すぐに駆け込んだ自室で着替えるのも後回しにして寝そべっていた。


 休日にも関わらず平日の疲れを癒すどころか、2週間分の疲れを1日で溜めたような気分になっていた。


 原因はどう考えても、俺が吉野さんを意識してしまったことだ。


 学校やその帰り道では何も感じなかった。


 ただ今日はシチュエーションが良くなかったのだ。


 休日に二人きり、その上、髪型や服装までいつもとは大きく異なっていた(服装に関しては制服しか見たことがなかったので当然だが)。


 それが好みドストライクだったのだから、意識するなという方が無理な話だろう。


 よし、今日は仕方ない。俺の好みに寄せてきた吉野さんが悪い!と理不尽すぎる責任転嫁を済ませ、来週からのことを考える。


 恐れるべきは、今日をきっかけにして俺が学校でも吉野さんを意識してしまうことにある。


 そうなってしまえばお昼を一緒に食べたり、休み時間に雑談をしたりと、割と関わる機会が多い俺の学校生活に支障をきたすことになる。


 試しに制服姿の吉野さんを想像してみる。


 紺色のブレザーに青いリボン。ダークグレーのスカート。


 髪はウェーブのかかったミルクチョコレート色のセミロング。


 ここで、注意深く自分の体に変化がないか確認する。


 特に変わったところはなく、安心し切っていると、脳内に浮かべていた吉野さんのイメージが勝手に変わっていく。


 白のブラウスに茶色のロングスカート。真っ直ぐに伸びた髪。


 気がつくとその顔がすぐそばにあり・・・・・。


「だああああああ!!!!!!!」


 無理やりイメージを振り払おうとするも、気を抜いた瞬間にフラッシュバックしてきて、なかなか消えてくれない。


 余計なことを考えないようにと、先週化学の授業で習った語呂合わせを全身全霊で暗唱する。


 幸い再来週にはテストがあり、来週からはテスト期間という扱いになる。


 勉強に集中しておけばしばらくは大丈夫だろう。


 そう結論づけ、問題集を開く。


 その日は何かに縋るように勉強し、いつもの3倍は捗ったのだった。


「どうしてこうなった」


 次の日。俺が起きると同時にメッセージが送られてきたのだ。


「ね、今日の午後って空いてる?」


 2日前にも見たような文面で、同じ人物から。そして今は誰よりも会いたくない人でもある。


 続けて送られてきたのは、「一緒に勉強しよー! てか教えて! 本当に!」というものだった。


 吉野さんが勉強?人が勉強をしてるだけでご飯を奢らせようとしてくるあの吉野さんが?と、ここまで考えて、思い当たることがあった。


『2.頭良くなって誉められてみたい』


 吉野さんのやりたいことリスト2ページ目。


 ちらっと見たそこにはそう書いてあった。


 つまり今回のテストで結果を出して、達成しようという算段なのだろう。


 しかし、状況が悪い。


 俺は昨日の今日で吉野さんを意識してしまっているし、そのことを頭から追い出す作業において、勉強に頼り切っていた。


 つまり、一緒に勉強するということは俺が感情をコントロールする唯一の手段を失うということに他ならない。


「でもなあ・・・」


「俺でよかったら一緒に探したりできるしさ」そう格好つけて協力を名乗りでた手前、断るのは気が引ける。


 とりあえず、「いいよ、どこにする?」と返すと一瞬で既読がつき、「この前と同じファミレス! 13時で!」と返信がきた。この前というのは、自分探し会議のことを指しているのだろう。


 本来なら二度寝を決め込むところだが、今から寝る気にはなれないので仕方なく起き上がる。


 今日が無事に終わることを祈りながら、頭を整理するべく洗面所に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る