あるKAZOKUの休日

海湖水

休日

 「ねえ、パパ‼︎今日は買い物に行くって言ったよね⁉︎起きて‼︎」


 朝、うちむらともひとは目を覚ました。時計の針は午前6時を指していた。


 「もう少しだけ寝るから、また起こしてくれ。それから話を聞い‥‥」



 「ねえ、パパ‼︎もう良いでしょ⁉︎もう十分寝たよ‼︎起きてーーー‼︎」

 

 またしても目を覚ました智仁は時計を見る。午前6時10分。


 「もう少しだけ寝るから、次はもっと遅い時間に起こしてく‥‥」

 またしても智仁は眠りについた。



 「ねえ、お父さん⁉︎そろそろ起きたらどうなの⁉︎休日だからって寝てばっかりはダメだってば‼︎」

 「あぁ、もうちょっと寝るから、また起こしてく」

 「さっさと起きろッつってんだろうが、このクソオヤジがーーー‼︎寝ぼけてんじゃねェよ‼︎」


 騒がしい休日が始まった。



  1階に降りると、妻の加奈子が食器を台所で洗っていた。

 「おはよう、お父さん。また二人に起こされたの?」

 「ああ、おはようお母さん。そうだよ。凛花りんかの方はずいぶんと気が強くなって‥‥。全く誰に似たんだか」

 「あら、私の口が悪いって言ってるの?」

 「そそそそそ、そんなことあるわけないじゃないか‼︎母さんはいつだって優しいよ‼︎」

 「あら、ありがとう」

 

 なんとか乗り切った。どこに地雷があるのかわからないのは恐怖以外の何ものでもない。つい先程の問答で、智仁の背中は、着衣泳でもしたのかと聞きたくなるほどの汗でビチョビチョだった。これが前から出てきていないだけ、運がいいと言うべきか……。


 「おはよう、お母さん。朝っぱらから熱いねぇ〜」

 「おはよう、ママ‼︎」


 2階からは娘の凛花と息子の悠太ゆうたが降りてきた。

 凛花は高校生。普段の言葉使いは優しいお姉さんといったところだが、たまに内なるチンピラが刺しにくる。

 悠太はもうすぐ小学生。そういえば、今日ランドセルやその他の必要なものを買いに行くと約束していた。だからあんなに起こしてきたのか、忘れてたよ。


 「お父さん、ご飯は作ってあげたのでそれを食べておいて。凜花と悠太は着替えるわよ。今日いろいろなものをお父さんに買ってもらうんでしょ」

 「えっ?俺が買うのかい?」

 「当たり前でしょ。なんで自分の子供に買わせようとしているのよ」


 違う!!智仁の所持金は小遣い制である。たいした額をもらっているわけでもないのに、払うことになるなんて。しかし智仁は加奈子に逆らうことはできない。この家の権力はほとんどが加奈子に集中しているからだ。

 ふと机を見るとトーストと目玉焼きが置いてあった。目玉焼きの艶やかな白身と黄身、トーストの少しの焦げと香ばしい匂いが智仁の食欲を刺激する。


 「いただきます」

 「食べたら出発するからね。早く食べきってねー」

 

 かけられた愛する妻からの言葉に、智仁は急いでパンを口に詰め込んだ。



「ショッピングモールにつきましたー!!」

「早く買い物するよ、今日は買うものが多いんだから」

「久しぶりに来たわね。ショッピングモールなんて何年ぶりかしら。いつもはスーパーですましちゃうものねぇ」

「ねぇはやくー!!置いてっちゃうよー!!」


 ショッピングモールは家から20分の場所に立っていた。しかし、今まで見てきたショッピングモールとはある大きな違いがある。


 「大きいなー。今どきのショッピングモールはこんななのか?」

 「そんなわけないでしょ。こんなに大きいところなんてそうそうないよ。少しは調べてみたら?仕事にも影響するかもよ?」

 「俺の仕事とショッピングモールは関係ないぞ⁉」


 あれ、そうだっけ?と言わんばかりの凜花と言葉をかけあいながら智仁はモールの中へと入っていった。

 モールの中はたくさんの人でにぎわっていた。凜花によると、つい最近できた類まれなる程の大きさのショッピングセンターということで、遠くから来た人もいるらしい。


 「とりあえずランドセルと筆記用具を買うぞ」

 「文房具が売ってたのって、たしか5階だっけ?私ここに来たことないから楽しみだなー」

 

 5階に上るためにエレベーターについた4人は唖然とした。


 「なんでこんなに人がいるんだ?」

 「今日ってなにかあるのかしら?休みとはいえこんなに人がいるなんて……」

 「ヒトガゴミノヨウダ」

 「しょうがない、エスカレーターで上がろう。って悠太はいつそんな台詞セリフ覚えたのよ?」


 エレベーターで5階についたはいいものの、5階も家族で混みあっていた。ほとんどは入学前の親子連れなのだろうが、少し受験生のような子供たちも見える。

 

 「ああー、私も来年は受験じゃん!!」

 「進路はどこにするか決めてるのか?」

 「うん、T大学に行くつもり」

 「サラッとすごいことを言うな、うちの娘は……」

 「きっと私に似たのね」

 

 トンビが鷹を生む、だろう。

 まずは悠太のランドセルを選びに行った。その後に文房具と晩御飯の材料を買う予定だ。

 

 「この色のランドセルがいい!!」

 「ランドセルって値段張るな……」

 「私の時のこと忘れてたの?あの時もお父さんが買ってたでしょ?」

 「あの時はまだ無駄遣いが少なかったからね。お小遣い制にしてなかったら、今ごろ家計は火の車よ。ちょっとは無駄遣いを抑えてよね」

 「はい、すみません」


 ランドセルの値段は1年かけて貯金した智仁の小遣いと同じだった。1年間がレジに吸い込まれていくのを眺めながら、智仁は自分の浪費癖を後悔していた。

 

 「次は文房具買わなきゃ。ノートがなくなってたはずだから、それも買わないと」

 「えっと、筆箱はどれがいい?」

 「筆箱はこれがいい!!」

 「あら、お母さんもこれ使ってたけど、使いやすかったわよ。見る目があるわね」


 文房具を買い、食料品売り場の1階に降りているときに事件は起こった。


 『卵と牛乳のセールが5分後に始まります』

 「ちょっと、もうこんな時間⁉お父さん、急ぐわよ!!」

 「おい、母さん。まさか、これが目的だったのか!?」


 加奈子はすぐさま1階へと下りきると、卵売り場へと走り去っていった。残された三人は、当初の予定通りその他の食べ物を買った。


 「お父さん、アイス買ってよ」

 「えぇ~、ああ、うん、しょうがない」

 「やった♪」

 「僕はスーパーカップね!!」

 「私はハーゲンダッツで」

 「自分が払わないのをいいことに……」

 「お母さんにもハーゲンダッツね」

 「ああ、そうし…うわっ!!いつ帰ってきたの⁉」

 「卵と牛乳買えたわよ。じゃあ、帰りましょう」


 ショッピングモールで買うものは全て買うことができたので4人は駐車場へと向かった。智仁は車のキーを取り出した時にあることに気づいた。


 「どこに車とめたっけ……?」

 「え、覚えてないの?記憶力なさすぎない?」


 娘の口から飛び出すドスが智仁の心を切り裂く。娘よ、そういう言葉が一番傷つくんだぞ。

 しょうがないので駐車場を智仁は歩き出した。そしてキーのボタンを押した。すると駐車場の奥からカギのあいた音がした。

 

 「やっと見つけた!!この車か」

 「んなわけないだろ。車種一緒だけど他人のモンだよ」


 娘よ、口が悪くないか?


 

 「悠太、小学校楽しみか?」

 「楽しみだよ!!」

 「私は来年から受験でしょ。マジかー」

 「T大学に入るんだったら、帰ってから勉強しないとねぇ(ニッコリ)」

 「ねえ、お母さん。その笑み怖いからやめて」


 帰りの車の中はいつも騒がしい。

 明日からも騒がしい日常だ!!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あるKAZOKUの休日 海湖水 @1161222

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説