エピローグ 送られる少女の回想


兎馬美海は、ずっと、あの演奏が脳裏から離れなかった。


力強い演奏。

楽譜通りのはずなのに、まるで彼女のもののように、生きているようにピアノが歌う。


そんな光景が。


そのピアノを弾いていた人というのが、犬飼しのだった。


普段大人しく、黙っている女子生徒。

そんな彼女が、こんなに美しい演奏をするだなんて______


だから、兎馬美海がバンドをやろうと思い立った時、パッと浮かんだ名前がしのだったのだ。


……あの演奏を、もう一度聴きたい。


そう思ったから、彼女に声をかけた。


……あの演奏に、似合う演奏をしたい。


そう思ったから、指がボロボロになるまでギターを練習しまくった。


そして、今日。


今日のBremenこそ、兎馬美海が求めていた犬飼しのの演奏だった。


最高だった。


アウトロに入った瞬間、彼女は一音外した。


___それだったんだ。


ずっと、彼女が“楽譜通り”だから美しいのだと思っていた。


でも、それは違ったんだ。


ほんの少しの違和感こそが、彼女のピアノを生きさせていたんだ。


だから、彼女の外した一音が、彼女のピアノを___Bremenを完成させたのだった。


最高だった、本当に。


「楽しみだなぁ」


帰りの電車内で、兎馬美海はつぶやいた。


しのちゃん、私たち準優勝だったんだよ。


初めての演奏でだよ!


そんなことを言ったら、彼女はどんな顔をするのだろうか。


もともとこの大会の為だけのバンドだった。


だけど……私はもっと、しのちゃんと、圭ちゃんと、伊音ちゃんと、弾きたい。


___もう一回、私とバンドを組んでください。


そう言ったら、笑って受け入れてくれるかな。


「……あぁ、楽しみだなぁ」


だから、これからもずっと。




バンドを愛そうと思った。

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