指を並べて
おくとりょう
白いその味
朝。目が覚めて、頭をかこうとすると、右手の指が一本もなかった。ぜんぶ。
指の無い手のひらは丸でも四角でもなく、歪な形をしていた。私はため息まじりにそれを眺めて、布団をめくる。案の定、何本か白いイモムシみたいに転がっていた。
「あーぁ、またかぁ」
まだ指の残っている左手でつまみ、拾い集める。ひんやりとした白いそれは何だか自分の身体とは思えなかった。昨夜寝る前までは私の一部だったはずなのに。
机に並べた白く長い指。長さの違う五本。それはどれも関節で軽く曲がっていて、緩やかな弧を描いている。手のひらに繋がっていたであろう付け根は、切り口ではなく、肌で覆われていた。丸い爪はツルッとしていて、それはやっぱりイモムシみたいだった。
でも、動くことはない。ふぅーっと息を吹きかけると、コロンと倒れた。
つまみ起こそうと右手を伸ばすと、丸いだけの手の甲。指がまだ生えていないから。無い指が動くわけはなく、まるっこい手の甲は白い指に届かず、虚空で止まる。それを少し見つめてから、左手で指をつまみ上げる。
触るとそれはやっぱり指で、中に骨があるのがわかる。柔らかな白い肌がちょっぴり昨日食べた大福に似ていて、そっと唇をつけてみた。だけど、何の匂いもしなくて、それが何だか寂しくて。
思いきって、噛んでみた。
プチッと弾ける音。甘酸っぱい汁が染みだすも、すぐに自分の唾の味に戻った。白い指には私の歯形が朱く残ってた。
「そういえば、ホントは昨日、いちご大福を食べたかった気がする」
指をポイっと口に放り込む。いつの間にか、右手の指が生えていて、真っ赤な味を噛みしめながら、残りの指を片づけた。
台所へと向かうときに、左手から何かが落ちた気がした。だけど、私は見ないふりをした。
指を並べて おくとりょう @n8osoeuta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます