第21話
「結局は思い過ごしだった訳か」
丞玖の口調は、どことなく、ほっとしたように聞こえた。
「何て言ったらいいか。でも、これで納得できたのよね」
未優も心なしか安心したようだ。
「だけど……」
言いかけて止めた。では、あれは誰だ。真咲が見たあの女性は、いったい誰なのだ。脳が作り出した幻覚。思い込みと記憶の混乱による妄想。そうなのだろうか。本当に、そうなのだろうか。吹雪の音を聞きながら抱きしめられた暖かい胸。大切な記憶。それを夢だと、妄想だと切り捨てることは、真咲には出来なかった。
「……という訳で、日本神話におけるイザナミが最初と言われる「呪い」というものが、現代まで
例によって教科書とは全く関係のない話である。この学校の中等部では、雑談によって生徒の心を
「いいか、よく覚えておけ。呪いは長く
真咲は夢の中にいた。外では雨が降っている。窓を閉めなきゃ。起き上がり、電気をつけようとしてスイッチを押すが、何故か部屋は暗いままだ。寝返りを打って目を覚ます。布団の中にいた。
母の袴は何故こんな色をしているのだろう。真咲を産んだからだろうか。真っ赤な血に
──お母さん。
恐る恐る、呼びかける。
──どうして振り向いてくれないの? こっちを向いて。
真咲は手を伸ばす。
白い肌、浮き上がった
紅い唇が微笑の形に歪む。恐怖に身が
怖い──!
夜を切り裂くような悲鳴が、真咲を辛うじて現実に引き戻した。
幾度も見た悪夢は、これだったのだろうか。何故こんな夢を見るのだろうか。
母は死んだ。真咲のせいで。真咲を産んだことで、母は死んだのだ。
迎えに来たのだろうか。僕は、生きていてはいけないから。
──お母さん。
初めて写真を見たときからの、恋心に近い想い。胸が苦しくなるほどの募る気持ち。
堪らなく恋しい。けれど。
真咲は怖かった。あの何も映さない空洞の眼が──とても恐ろしかった。
何かの抑えが外れたかのように、幻聴が頻繁に真咲を襲うようになった。
突如吹き荒れる吹雪の音。真咲を呼ぶ、か細い声。繰り返し、それが聞こえるようになった。頭の中に響くのではない。リアルに音として耳に届くのだ。授業中に突然辺りを見回し耳を押さえる真咲を、クラスメートたちは不思議そうに見ていた。
怖い。けれど恐怖と同じぐらいの強さで、もう一つの思いが真咲を追い立てた。行かなければ。会いに行かなければ。呼んでいるから。
お母さんが、呼んでいるから。
──おいで
もう、その声に
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