第5話
期末試験の最終日、待ちかねたようにクラブ活動へと赴く同級生たちを尻目に、真咲はぼんやり窓の外を眺めていた。所々に水溜まりの残ったグラウンドでは、運動部員たちの掛け声が響いている。中高一貫校なので、中三の夏と言っても生徒たちは
「古文の最後の問題、笑ったよね。まるでエヴァじゃん」
「あれって配点あるのかな? 授業で脱線したときの話なのにさ」
① 平安時代前期ごろに成立したとされる
② いくつかの説話は、小泉八雲の『怪談』の元となるなど、後世の文学にも影響を与えている。
③ 謎の人物により『宇治大納言物語
「①と②とで迷っちゃった」
「小泉八雲はありそうだもんね」
「雪女とかね」
「安倍晴明は平安時代だから、やっぱ①じゃない?」
宇治拾遺物語には、晴明の出て来る話が幾つかあった。式神を使い、
「安倍晴明、カッコいいよね」
女生徒の一人が顔の前で指を動かし、式を打つしぐさをする。正解がどれかなど、もうどうでもいいらしい。
平安時代、夜がまだ途方もなく暗かった頃に
「呪いって、自分が呪われたと気付くことで効力を発揮するんだって」
「何それ。暗示みたいなもの?」
「呪われてるって思うことで、本当に病気になったりするの」
「本当かなあ?」
「そうみたいよ。何かの実験でね。三回に一回
「嫌だ怖い。何それ、旧日本軍の拷問とか?」
「怪我や病気は外的要因じゃなくて脳が引き起こす生体反応なんだって。物理的に潰れるんじゃなくて脳が潰れろって指令を出すの」
「その話、どのサイトで見たの?」
「忘れた」
不気味な話題にも関わらず笑い声が上がる。彼女たちにとっては、すべてが雑談の材料に過ぎないのだ。
呪いとは、相手に暗示をかけることによって、不自然な生体反応を引き起こすもの。
そう言えば、怪異は脳が引き起こす幻覚だと聞いたことがある。点が横に二つ並んで入れば、脳はそれを目だと認識する。壁の染みが人の顔に見える。脳が誤作動を起こすのだ。電磁波等の影響下にあったり不安定な精神状態であれば、それは
──おいで
ふと誰かに呼ばれたような気がした。教室が急激に回り始める。妙に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます