加速する混沌//停戦交渉

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 ──加速する混沌//停戦交渉



 核施設の奪取を目指すファティマとデフネ、イェニチェリ大隊。


「進め! 皆殺しにしちゃえ!」


 ヴリトラ・ガーディアンズは正面装備の充実したイェニチェリ大隊を前に撤退を始めており、戦場は核施設内に移っていた。


「射撃に注意! ここには核物質がたんまりだよ!」


 核施設には戦術核から戦略核までさまざまな威力の核弾頭が収められている。それらに銃弾や砲弾が命中すれば誘爆はしないものの核物質がまき散らされる。


 テリオン粒子も脅威だが、放射性物質もまた依然として脅威だ。


「デフネお嬢様! 敵が核を使う可能性は!?」


「連中は雇われのコントラクターだよ。核で自殺するほどの勇気はない」


 イェニチェリ大隊の兵士が叫び、デフネがそう言う。


「それよりお姉ちゃんを助けに行かないと!」


 デフネはアルファ級高位魔術師としてエネルギーシールドやエネルギーブレードを巧みに使いながらヴリトラ・ガーディアンズのコントラクターたちを撃破。核施設内を進撃していく。


 ヴリトラ・ガーディアンズのC4ISTARはサマエルによって妨害されており、彼らは窮地を知らせることも増援を要請することもできない。


『デフネさん! 一部の部隊をこの地点に向かわせてください! 核弾頭を搭載した巡航ミサイルが存在します!』


「分かったよ、お姉ちゃん。すぐに向かわせる!」


 核施設内にはヴリトラ・ガーディアンズがエデン統合軍から奪取した巡航ミサイルが複数設置されていた。核弾頭が搭載可能なものだ。


「お姉ちゃん!」


「デフネさん! こちらでも結構片づけましたが、まだまだ敵がいます!」


 ファティマはヴリトラ・ガーディアンズと交戦を続けていた。


 あちこちにアーマードスーツの残骸やコントラクターの死体が転がっており、ファティマがいかに猛威を振るったかを示していた。


「カイラはやったの?」


「まだです。逃げられました。追跡して殺害しましょう」


「オーケー!」


 ファティマたちはヴリトラ・ガーディアンズのコントラクターたちを撃破していき、逃げたカイラを追った。ファティマたちは確実にカイラに向けて迫っていき──。


「いた……!」


 そして、ファティマたちはカイラを見つけた。


 彼女はハミングバード汎用輸送機で核施設から相当しようとしている。そこにファティマたちが大急ぎで到達。


「不味いです。敵は戦術核を置き土産にしようとしてます」


「なら、急いで皆殺しにしなきゃ!」


 ファティマたちは逃げるカイラのパワード・リフト輸送機を狙う。


「“赤竜”!」


 ファティマが“赤竜”を放って離陸しかけていたハミングバード汎用輸送機を攻撃してこれを撃墜。ハミングバード汎用輸送機が低空から地面に落下した。「


「戦術核の確保だ! やれ!」


「了解」!


 デフネたちは戦術核の確保に向かう。戦術核は歩兵が携行して使用する小型のもので威力は低いが密かに核攻撃をできるものであった。


「近寄らせるな!」


「撃て、撃て!」


 迫るデフネに向けて無数の銃弾が叩き込まれ、デフネは強力なエネルギーシールドををれを防ぎながらヴリトラ・ガーディアンズのコントラクターたちに肉薄。


「死んじゃえ!」


 そしてエネルギーブレードで敵を叩くと戦術核を確保。


「お姉ちゃん! 戦術核を確保したよ!」


「オーケーです! 残りはカイラさん……!」


 ファティマはデフネの報告に頷き、そして墜落したハミングバード汎用輸送機の方に向かて進んだ。


「カイラさん。ここまでですよ」


 ハミングバード汎用輸送機から這い出てきたカイラにファティマが“赤竜”の刃を向けて宣言した。


「クソ。ここまでかよ……」


 カイラはそう唸り、ファティマは“赤竜”をカイラに突き立てた。


「これで核施設の奪還には成功しましたね」


「そうだね。無事に核施設確保、と」


 ヴリトラ・ガーディアンズは排除され核施設はイェニチェリ大隊の制圧下に置かれた。エデン統合軍が装備していた核兵器が全てデモン・レギオンのものとなった。


「デフネさん。ひとつ頼みたい仕事ビズがあるのですが」


「どんな仕事ビズ?」


「実はですね。この勝利を生かせるプランがあるのですよ」


 ファティマがにやりと笑ってそう言う。


 一方そのころ、レナトが打診した停戦会議への返事が来た。


 ドミトリーに続いてアデルも停戦交渉に応じるとしており、停戦交渉に応じないのは統合特殊作戦コマンドのクリスティーナのみだ。


 そして、停戦会議の場はアセンションセクター・ツーとなった。


「この停戦交渉で将来的なエデンの在り方についても決定したい」


 レナトはそう自慢気に語る。


 突如としてエデンの二大民間軍事会社PMSCを手にし、エデンにおいて有数の権力者となった彼は自分こそがこの内戦を終わらせるのだと意気込み、思い上がっている節があった。


「オフィーリア最高経営責任者CEO。当日の警備はよろしく頼む。ジェリコは今やエデンにおける最大規模の戦力だ。あらゆる敵の攻撃から会議を守ってくれ」


「畏まりました、閣下」


 アセンションセクター・ツーの警備はMAGを併合したジェリコが担当することになり、アセンションセクター・ツーでの警備計画が立案される。


 レナトたちがそのような準備をする中、アデルは今後のことを考えていた。


「停戦は必要でしょうが、停戦したあとにどうするかも重要です」


 アデルがシーにそう語る。


「レナトが提案する落としどころは複数政党を認め、選挙を再開するというところでしょう。確かにそうなれば今までの貴族化した党の階級を排除できます」


「しかし、複数政党を認め、選挙をするならば我々の他にも政党が必要です。それからエデン社会主義党も方針を変える必要があるでしょう」


「そうです。エデン社会主義党そのものにも代わってもらう必要があります」


 エデンにおいて本来改革はであるはずのエデン社会主義党こそが保守派になっており、エデン民主共和党とともに保守とリベラルの基本的なふたつの政党が存在することになっていた。


「大事なのは我々がエデン社会主義党になり替わるというわけではないということです。我々がまたひとつの政党で政治を行えば腐敗はすぐに訪れます。旧世界のように民主的なプロセスが大事です」


「そうですね。権力は腐敗し、絶対的な権力は絶対に腐敗する。民主的なプロセスは無駄なものも多いように思われますが、必要なことです」


「ええ。このエデンに再び民主主義を取り戻しましょう」


 アデルは自分が交渉に出席する間の指揮をシーに任せ、国家保安委員会の護衛エスコートに守られてアセンションセクター・ツーに向かった。


 この停戦交渉で停戦が決定すれば、次は講和となるだろう。


 エデンを破壊と殺戮に巻き込んだ戦争は終わろうとしていた。


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