ワールシュタット作戦//ウェストサイドセクター・ツー

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 ──ワールシュタット作戦//ウェストサイドセクター・ツー



 ファティマたちデモン・レギオンはアデルたちのウェストサイドセクター・ツー制圧作戦に援軍として参加することになった。


「準備完了です、イズラエルさん」


「よし。これから友軍の攻撃が始まる。そののちに作戦開始だ」


 ウェストサイドセクター・ツー制圧作戦において先陣を切るのはエデン民主共和党の側についたエデン統合軍部隊及び国家保安委員会の特殊作戦部隊だ。


 両者は装備としてTYPE300装甲兵員輸送車などの装甲兵員輸送車APCを保有し、榴弾砲や迫撃砲などの火砲を有している。


 それらの半数は既に前線に配置されており、攻撃準備を整えていた。


『全部隊へ! 攻撃開始、攻撃開始!』


 無線で命令が発され、まずは火砲とドローンによる攻撃から始まった。


 ドローンはステルス機のそれが最初に飛行しており、そのドローンの把握したドミトリー側のエデン統合軍部隊の前線部隊や後方の砲兵陣地、地対空ミサイルSAM陣地に向けて砲撃が始まった。


 使用されるのはレーザー誘導とAI制御による知性化砲弾スマートシェルであり、着実に敵の装備の弱点を狙った。次々に陣地が爆発して吹き飛び、敵の火砲が誘爆を起こして吹き飛んでいく。


「前進、前進!」


 エデン民主共和党の部隊は僅かな正面装備であるMBT90主力戦車を先頭に進む。


 そこでさらにバルチャー攻撃機が上空援護に当たり、敵の待ち伏せに警戒。


 そこで対戦車ミサイルが先頭を進んでいるMBT90主力戦車に飛来し、アクティブA防護PシステムSが作動してミサイルを迎撃。


「接敵!」


 そして、歩兵が装甲兵員輸送車APCを降車して戦車を援護する。銃弾が飛び交い激しい戦闘が始まった。


「友軍が戦闘を開始。苦戦しているようです」


「でしょうね。特殊作戦部隊というのは基本的に練度がいくら高くとも軽歩兵に過ぎません。装備が整った敵と正面から戦えば当然不利です」


 部下の報告にそう言うのはシシーリアだ。


「しかし、敵の正面装備に制限がかかる状態ならば勝ち目はあります。市街地戦はまさに敵の戦車や火砲などに制限がかかる状況。であるならば、我々にも勝利する見込みはあります。さあ、戦いましょう!」


 ついにここでデモン・レギオンが戦闘に参加する。


「進め! 勝利しろ!」


 膨大な人の波がウェストサイドセクター・ツーに押し寄せ、ドミトリー側のエデン統合軍に襲来する。


「何て数だ! どこからこんな人間を……」


「ゲヘナの連中だ! ゲヘナのテロリストどもを使ってやがる!」


 エデン統合軍は押され始め、撤退を強いられる。


 ウェストサイドセクター・ツーは徐々にデモン・レギオンとエデン民主共和党の制圧下に入った。降伏したエデン統合軍部隊ととともに。


「リストを確認しろ」


 国家保安委員会の部隊が降伏した部隊やウェストサイドセクター・ツーに残っていた人間を集めて事前に作成されたリストを確認していく。


「リストに名前がある人間は拘束しろ」


 このリストは粛清リストだ。名前がある人間は今後のエデンにおいて不都合になる人間であり、拘束されて後方に移送された。


「我々もリストを。彼らより先に」


「ええ、カーター先生」


 その国家保安委員会の部隊よりも先に動いているのはミアたちデモン・レギオンの科学担当だ。彼女たちは事前に定められたアレクサンドリア作戦において重要人物とされた科学者や技術者の保護に当たっている。


 重要な施設が破壊されないようにアドバイスし、既にエデンの科学者たちとも共同で戦争による知識と技術の喪失を避けようとしていた。


 ウェストサイドセクター・ツーでの戦闘は続き、ファティマ及びアデルの勢力とドミトリーの勢力が衝突を続けた。


 人海戦術でひたすら市街地を制圧していくデモン・レギオンに対してエデン統合軍は明らかに火力と弾薬が不足しており、エデン統合軍は敵を阻止できていない。


「既に市街地の半数以上を制圧」


「インフラ設備の制圧も開始しました」


「友軍は他のセクターに繋がる高速道路などの制圧を実行中です」


 ファティマのいる司令部にて次々に報告が入る。


「順調ですね。確実に制圧していくと同時に敵に出血を強いましょう。それが重要です。ドミトリーはここに戦力を集中させているはず。ここで倒せば我々はそれだけ有利に他の地域で戦えます」


 ファティマは報告に対してそう言った。


「しかし、こちらも損害を出し過ぎないように気を付けてください。我々の戦いはこれからですからね」


 ファティマのこの言葉は敵はドミトリーとレナトだけではなく、裏切る予定のアデルも含まれているということを意味する。


「お姉さん。盗聴はされてないけど不審な通信がいくつかあるよ」


「傍受をお願いします、サマエルちゃん」


 国家保安委員会議長のシーが送り込んだ捜査官はサマエルによってほぼ把握されていた。サマエルからの情報を得たファティマは彼らに裏切りの計画が渡らないように注意している。


「さあ、このまま勝利を」


 デモン・レギオンはこれから4日をかけてウェストサイドセクター・ツーを完全に制圧し、ドミトリーの勢力に大打撃を与えた。


 ドミトリーの率いるエデン統合軍は撤退を再編を強いられ、士気は低下。許可なく敵に降伏する脱走兵が相次ぎ始めていた。


「アンドロポフ閣下。匿名で通信が入っております」


「誰からだ?」


「分かりません」


「繋げ」


 憂鬱な気分で報告を聞いていたドミトリーの下に匿名の通信が入る。


『ドミトリー。ウェストサイドセクター・ツーでの敗北は聞いた』


「テヘーロか? 何のつもりだ?」


 通信の相手は反乱を起こした統合特殊作戦コマンド司令官のクリスティーナだった。


『お前の敗北でエデン統合軍に犠牲が出ていることを私も案じている。彼らは我々の同胞であるからな。そこで提案がある』


「聞こう」


『ゼレール元帥を解任しろ。そして代わりに私を軍のトップに。そうすれば統合特殊作戦コマンドとともに私はお前の指揮下に入ろう』


「ゼレール元帥を切れだと? 本気で言っているのか?」


『所詮古い戦争しか知らない年寄りだ。いつまでもトップに据えておく人材ではない。私の能力についてはちゃんと把握しているだろう』


「忌々しいことだが」


 クリスティーナは大勢のドミトリーの部下を暗殺している。


『このままではお前は失脚する。そうなればアデルがお前をどう扱うかなど予想できるだろう。アデルはゲヘナの人間とも関係を持っているのだから』


「分かった。そちらの申し出について考えておく。以上だ」


 ドミトリーはそう言って通信を切った。


「ゼレール元帥をを切れ、か……」


 ドミトリーとゼレール元帥は長年の同志であった。ふたりはエデン社会主義党書記長と国防大臣としてエデンの軍事を牛耳り、そこから利益を得ていた。


「MAGのソロモン最高経営責任者CEOに繋げ。秘匿回線を使うように」


「了解」


 そして、ドミトリーはMAGに連絡を取る。


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