絶好の強盗日和//予想外の積み荷

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 ──絶好の強盗日和//予想外の積み荷



 シシーリアから連絡があり、ファティマたちはグリゴリ戦線の拠点に向かった。


「よく来てくれました、ファティマさん、サマエルさん」


 シシーリアがファティマたちを出迎える。インナーサークルのメンバーとともに。


「今回の仕事ビズは何でしょうか?」


「武器弾薬の調達です」


「ふむ?」


 短くシシーリアが述べるのにファティマが怪訝そうな顔をした。


「ここ最近の戦闘で武器弾薬が不足し始めています。それを解決するために武器弾薬の調達に関する仕事ビズを行います」


「というと、ソドムから購入を?」


 グリゴリ戦線はソドムから武器弾薬を購入している。


「それもありますがそれだけではありません。実は財政的に極めて厳しい状況にあり、ソドムに対して対価が支払えそうにない状況なのです」


 グリゴリ戦線の台所事情は険しいところだった。


「そこで今回の仕事ビズです。我々はジェリコの弾薬庫を襲撃し、そこにある武器弾薬を強奪します」


「本気ですか? 武器が足りないのに襲撃を?」


 シシーリアの言葉のファティマが信じられないという顔をした。


「本気ですよ。ジェリコの大規模な弾薬庫についての情報があります。作戦に使用する弾薬と作戦成功で得られる弾薬を計算すれば結果としてはプラスです」


「弾薬庫は近いのですか?」


「この弾薬庫は以前の攻撃で我々がジェリコを撃退した後にジェリコが態勢を整え直すために設置したものです。ジェリコは再び攻勢に臨むために物資集積基地としてこの弾薬庫を建造しました」


「なるほど。それを叩けばジェリコの再びの侵攻も阻止できるわけですね」


「その通りです」


 ファティマはシシーリアが意図するものを認識した。


「作戦は二段階。まずこの弾薬庫であるタンゴ・シックス基地に向かう車列コンボイを待ち伏せして車両を奪取します。それからその車列コンボイでタンゴ・シックス基地に向かう」


 不意を打つために敵の車両を奪って利用する。


「それからタンゴ・シックス基地を襲撃して武器弾薬を強奪。奪える限りを奪って逃げます。これが今回の作戦です」


 襲い、奪う。シンプルだがシンプルであるが故に協力だ。


「オーケーです。いつ始めますか?」


「4時間後に」


 こうして作戦が決定した。


 ファティマたちは作戦準備のために待機した後に動き始める。


 装甲トラックに乗り込み、緩衝地帯を目指す。そこにジェリコは物資集積基地タンゴ・シックス基地を設置しているのだ。


「この道路をジェリコの車列コンボイは移動します」


即席爆発装置IEDを仕掛けましょう。待ち伏せです」


 シシーリアが言い、ファティマがグリゴリ戦線の兵士たちとともに待ち伏せに向けての準備を始める。即席爆発装置IEDが路肩に仕掛けられ、機関銃や狙撃銃が然るべき場所に配置された。


「偵察妖精を打ち上げますね」


 さらにファティマが偵察妖精を使ってこの地点に向かって来る車両が存在しないかを監視し続ける。戦術級偵察妖精は周辺を旋回しながら情報を集めた。


「来ましたよ。車列コンボイです。タイパン四輪駆動車とハウンドドッグ装輪装甲車によって守られています」


「車両の数は?」


「タイパン四輪駆動車が4両、ハウンドドッ装輪装甲車が2両、軍用トラックが8両です」


「それを襲撃しましょう」


「了解です。そちらに情報を送りますね」


 ファティマは戦術級偵察妖精の情報をグリゴリ戦線の兵士たちに送信。


「サマエルちゃん。通信妨害をお願いします」


「分かったよ」


 ファティマがジェリコの通信の妨害を開始。


 それでもジェリコの車列コンボイは止まらずファティマたちが待ち伏せしている地点にまで前進してくる。


「まだ撃ってはいけませんよ。まだです。まだ引き寄せて……」


 シシーリアが緊張する兵士たちにそう言い聞かせた。


 車列コンボイは着々と待ち伏せ地点に進み──。


即席爆発装置IED起爆!」


 路肩に仕掛けられていた即席爆発装置IEDが爆発し、ハウンドドッグ装輪装甲車とタイパン四輪駆動車が爆発して炎上する。


接敵コンタクト! 敵だ!」


「応戦しろ!」


 ジェリコの護衛エスコート部隊は混乱しながらも交戦を開始。


「撃て、撃て!」


「車両は撃つな! 必要だ!」


 圧倒的数の不利の中で押し込まれて行くジェリコの護衛エスコート部隊。


 彼らが壊滅するまでにはそう長い時間はかからなかった。しかし、グリゴリ戦線は相変わらず大量の死傷者を出しての勝利となったのだった。


「無事に車両は奪えましたね。積み荷を確認してください」


「了解」


 グリゴリ戦線の兵士たちが積み荷を確認していく。そのほとんどがMTAR-89自動小銃であったりCR-47自動小銃であったりの小火器と弾薬だ。


 だが、予想外の品もそこにはあった。


「これは何だ?」


「シシーリア様に聞いてみよう」


 シシーリアがトラックの1台に呼ばれる。


「これは」


「生物化学兵器だと示すマークですよ」


 トラックに積み込まれていたのはドラム缶で、そこには生物化学兵器が搭載されていることを示す黒と黄色のハザードマークが記されていた。


「これについて何か情報はありましたか?」


「いいえ。しかし、この車列コンボイの行先はタンゴ・シックス基地でした。これは我々に対して使われる可能性があるものでしたね」


「危ないところでした」


 シシーリアとファティマがそう言葉を交わす中、イズラエルがやってきた。


「どうしたのですか、シシーリア?」


「イズラエル。予想外の品が転がり込んできました。生物化学兵器です」


「何と」


 シシーリアの言葉にイズラエルが驚愕。


「どうするのですか?」


「私としてはフォー・ホースメン辺りに売却することを考えています」


「それは賢明だとは思えません。我々が使うべきです。敵は我々に対してこれを使用しようとしたのですから」


 イズラエルは生物化学兵器のジェリコへの使用を主張した。


「私はそれこそ賢明だと思えません。我々はフォー・ホースメンのように防護装備を持っているわけではないのです。敵がこれを機に全面的な生物化学戦に出た場合、大きく被害を受けるのは我々の側です」


「それは……確かに。ですが、逆にも考えられます。我々が生物化学兵器を保有し、それを使用する意志があることを示せば抑止力となります」


「抑止力、ですか。確かにそれも考えなければなりませんね」


 イズラエルの主張にシシーリアも部分的に同意し始めた。


「では、使用を?」


「生物化学兵器はドラム缶6つ分。うち2つをタンゴ・シックス基地に向けて使用し、残るは抑止力として保有しておきましょう。できればどのようなものかの解析も」


「それがいいです」


 シシーリアの決意をイズラエルが肯定した。


「生物化学兵器をジェリコ相手に使うのですか?」


「ええ。これで比較的楽に必要な物資を奪うことができますよ」


「それは何よりです」


 シシーリアの言葉にファティマが頷く。


「では、始めましょう」


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