第32話 長老の家、再び
アイシャたちは、長老の家へと戻ってきた。
「そういえば、この扉すっごく開けづらいんだよ! 長老って年の割に怪力だよね!」
「えっと、……」
トリスが扉を少し持ち上げるようにして押すと、扉はすっと開いた。
「え!」
「やっぱなー。コツがあるんだと思ったぜ」
「えーと、……」
トリスは、扉を押さえながら言った。
「ちょっと難しいよね。僕も最初は開けづらいと思った……し……」
(多分思ってないー! 気をつかわれてるー!)
アイシャは「あは……」と引きつった笑いがでた。
(ま、まあ……いいか!)
「長老ー! ただいまもどりましたー!」
アイシャたちが元気よく部屋に入ると、長老が出迎えてくれた。
「おお! 服は買えたか……なんじゃ、それは?」
「えっと……」
長老の目線の先には――トリスの持つ山盛りのプレゼントだ。
「貢ぎ物?」
「イケメンの代償」
アイシャとキールが言った。
トリスは、新しい服に着替えてやってきた。
「どうかな?」
「きゃー! いい感じ! 似合うと思ったんだよねぇ!」
「ほぉーん。ふぅーん。へぇー……」
「サイズが合う服があってよかったのぅ」
三人は口々に感想を述べた。
トリスは街の服を着ていた。
ボタンやポケットなどの装飾が多く、どことなくおしゃれに見えた。先ほどまで着ていたゴフェル――長老の孫だ――のおさがりより似合っている。
(街に行ったら、こーいう格好の人がたくさんいるのかぁ……!)
アイシャは、キラキラした目で都会を想像した。
それから、「あ」と思い出すと、長老にサイカチムシの角の入った袋を渡した。
「そうそう、服代なんですけど、全部ただにしてもらったんです。だから、これは使わなかったんで、返しますね!」
「あれらのものも?」
長老は、山盛りのプレゼントを指さして言った。
「あれらのものも、ただです」
「ほぅ……。やるのぅ……」
「そうだ! トリス、持って帰ってきたもの見てみてよ。街のものもあるかもしれないじゃない? なにか記憶のヒントにならないかな?」
「記憶のヒント……」
トリスは、もらったものを床へ並べていく。野菜、花、布、絵、置物……。
「みんなどういう基準で渡してるんだろ……」
「床を埋めてもいいですか?」
「いいだろ。街っつーか、王都のものが、この村にあんのかぁ?」
「精霊の森のそばの……農村とかのばっかりだったら関係ないかもね」
アイシャとキールも、トリスの後ろから一緒にのぞき込んだ。
「あ、これかわいいね」
トリスは、小さな犬のブローチを手にした。真鍮でできた、小さなものだ。
「なぁに、それ。犬?」
「それが、どうしたんだ?」
二人が聞くと、トリスは慌てて首を振った。
「あ、いや。記憶がとかじゃなくて、ただただ、かわいいから」
「あぁ、そういうこと!」
「まぁ、かわいーけどさぁ。一瞬どきっとしちまったぜ」
「ごめんごめん」
トリスはそう言って笑ってから、他のものもゆっくり見て回った。
トリスは、しばらく見ていたが、
「う~ん、見てみたけど、何も思い出せそうにないや」
「そっかぁ……」
アイシャも、並べてあるものを見る。
「この中に、王都のものはなかったのかな?」
「俺たちが見てもわかんねーからなぁ」
「僕も分からないけど……」
(……そう簡単に記憶は戻らないか……。)
アイシャは、トリスを見る。
トリスは、アイシャよりも落胆した表情をしていた。
(そりゃそうか。本人が一番、期待してたよね)
アイシャはそっと、トリスの背をさすった。
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