第21話 花祭り①

 翌日。

 今日は花祭りの日だ。


「……よしっ」


 アイシャは、祭りの広場へ入った。


 広場の中央には祭壇があり、一昨日見たときと違い、綺麗な装飾がなされていた。

 広場の奥には出店が並んでいる。まだ準備中のところもあれば、もう売り出しているところもあった。

 

快晴の空を見上げる。上空にはホワイトドラゴンも何頭か旋回しており、「縁起が良い」と盛り上がる村人たちの声が聞こえた。

 村の女性たちは花びらの入った籠を持ち、「いい天気ね」「おめでとう」などと言い合いながら、花びらをぱらりぱらりとかけてまわった。

 

 今は朝の九時だ。お祈りの時間まで、もう一時間ほどある。


「昨日あれからノアに手順の説明をしてもらったけど……。うーん、うまく出来るといいんだけど」

  

 すると、

 

「お、おい!」


 背後から馴染みの声がかけられ、アイシャは振り返った。

 見ると、キールがアイシャを指さしながら、小刻みに震えていた。

 

「な……っ! な……っ!」

「あ、キール! おはよう!」

「なんだコレはーーっ!?」

「えへへーっ! 綺麗でしょ!」

 

アイシャは、キールに駆け寄った。

 白いベールがふわりと揺れる。――アイシャは、巫女用の白いドレスを着ていた。白く柔らかな生地に、金糸の蔓や花が絡み合うもんようが入っている。



「見て見てっ! すっごく綺麗なの! ここの刺繍とかっ! あとこれマリィが言ってたレースってやつかも!」

 

 アイシャは、服を見せる。


「か、か……か、か……」

「……か?」

「か、……」

かわ?」

「…………なんでもない」

「?」

 

 キールがうつむいてしまったので、アイシャはきょとんと首をかしげた。



 かくかくしかじか。


 

「というわけで、私が今年の巫女なんだ」

「はー……。あのノアがねぇ……お前に頼むとはねぇ」

 

少し落ち着いた様子のキールに、アイシャはほっとした。

 

(なんかカタコトで変だったけど、いつも通りになってよかった! ……そうだ! こうすればもっと落ち着くかな?)


 アイシャはキールの手をぎゅっと握って、――


「緊張するけど、でも私頑張るから! 見ててね、キール!」

「ア゛ァッ!? アア、ア、アアア……」

「あれっ? またカタコトになっちゃった……」

 

 アイシャは、無自覚なのだ。


「大丈夫?」

 

またキールがうつむいてしまったので、アイシャは顔を覗こうとした。

 すると今度は後ろから、ぐいっと腕を掴まれる。


「ねぇ~、アイシャ~!」

「わわっ」

 

 振り返るとそこには、にこにこと笑っているマリィがいた。


「マリィ! おはよう!」

「おはようございますぅ! ねぇねぇその服はぁ?」

「花祭りの巫女服なの! かくかくしかじかで」

「いいなぁ! マリィは、今日はたくさん花びらを撒きますよぉ」

 

 マリィは、花びらの入った籠をふたつ持っていた。

 

「アイシャの分も持ってきたんですけどぉ、まさかそんなお役目になっていたとはぁ~」

「あはは……。急だったからね。それよりこれ、今日で全部いちゃうんだよね、なんかドキドキするね」

 

 アイシャが、籠の中の花びらを見ていると、


「えーいっ」

「きゃあっ」


 マリィが、花びらをアイシャの頭に振りかけた。


「うふふ~」

「……えーいっ」


 アイシャも、マリィの籠から花びらを掴むと、空へ放った。広がった花びらは、ぱらぱらとアイシャたちの頭にかかった。

 明るい日差しに、いつもと違う素敵な衣装。――アイシャの心は、うきうきと浮き立った。


「あ、おい。見ろよ。長老がきたぞ。……もう行ったほうがいいんじゃねぇのか」

 

 キールは広場の入り口を指さした。


「あ、行く行く!」

「……がんばれよ」

「ファイトですぅ~!」


 アイシャは頷くと、二人に向かって手を振った。

そして駆け出す。

 

 広場の入り口には、長老の隣に司祭様――トリスが立っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る