第286話 マンハッタン計画

「とんでもない秘密兵器だと?誘導ロケット弾以上なのか?」


 ルーズベルト大統領は訝しげに顔をゆがめる。ここ最近、日本に関する情報は全て聞きたくない“事実”ばかりであった。さらに追い打ちをかけようというのか。


「はい、大統領。オムスクとルーマニアの戦闘で、日本軍は新型の戦闘機を投入したようです。報告によると、最高速度は2,000km/h以上で爆弾搭載量も8トン、それでいて、旋回性能はスピットファイアに匹敵するということです。これがその戦闘機の写真です」


 ルーズベルトはスティムソン陸軍長官から渡された資料を受け取り写真を見る。しかし、どうにも理解が追いつかない。


 最高速度が2,000km/h?爆弾搭載量が8トン?


 たしか、イギリスで開発しているジェット機の最高速度が1,000km/hほどだったはずだ。我がアメリカ軍でも、イギリスから提供された技術情報によってジェット戦闘機の開発が進められてはいるが、初飛行は年末の予定で最高速度もやはり1,000km/h程度と聞いている。さらに、開発中のB29重爆撃機の爆弾搭載量が9トンだ。戦闘機でありながら4発重爆撃機に匹敵する搭載量があるというのか?


「これが日本の新型戦闘機か・・・。かっこいいな・・・・あ、いや、ここに書いている性能は本当なのか?どうやったらこんな性能を出せるというのだ!?それに、このように尖った形になったのには理由があるのだろう?すぐに分析するんだ!イギリスと共同作戦をしているということは、もっと詳細な情報が手に入るのだろう?情報収集を強化しろ!そうだ!チャーチルに電話だ!欧州戦争への参戦を匂わせて、さらなる情報の提供をさせるんだ!」


「大統領。電話は盗聴される可能性があります。大使館経由の暗号通信がよろしいかと」


「そうだな。では秘書官に文書をつくらせよう。なんとしても、日本の技術を入手しなければ・・・・」


「それと、大統領。ウラン鉱石の入手の件ですが、新たな情報が入りました。コンゴのシンコロブエ鉱山での調達に失敗したことは以前報告したとおりですが、1935年まで大量のウラン鉱石がアメリカに輸入されていたようなのです」


「なんだと?どういうことだ?」


「用途は時計の文字盤やウランガラスに利用となっているのですが、ウラン鉱石の含有量を考えると明らかに輸入量と製品の出荷量が合わないのです。これもイギリスからの問い合わせで発覚したのですが、どうやら産出されたウランの大部分がアメリカに陸揚げされることなく、第三国に送られていたようです」


「第三国にだと?まさか・・・」


「はい、大統領。おそらく日本とロシアだと思われます。これだけの量のウランを確保していると言うことは、連中も核兵器について研究をしていると考えてよいでしょう」


「それは、まずいな。連中のこの戦闘機や重爆撃機があれば、爆弾の重さが8トンくらいになったとしても運べるのだろう?我が国にとって重大な脅威となるな。核開発を急がせるんだ!予算はいくら使ってもいい!必ず連中より早く完成させるんだ!」


 ――――


 宇宙軍本部


「ルーズベルトからチャーチルに暗号電が送られました。『日本の技術を提供して欲しい。できればサンプルも入手できないか?』という内容です。その見返りに、大統領に再選した場合は欧州戦争へ参戦すると言っていますね」


 宇宙軍森川中佐が高城蒼龍に報告を上げてきた。


「そうか。で、チャーチルはなんと返答してる?」


「日英同盟の条件で、日本の技術は提供できないと返答していますね。まあ、ルーズベルトはともかく、チャーチルは日本によって暗号通信が解読されていると解っているので、滅多なことは言わないでしょう。条約違反を犯してそれが発覚したときのリスクが大きすぎますからね」


「確かに。しかし、アメリカ諜報員の活動を見逃すという可能性もある。アメリカに情報が渡っていないかどうかの監視は続けてくれ。それと、アメリカの核開発については何か解ったか?」


「コンゴのシンコロブエ鉱山にウランの買い付けを申し込みましたね。もちろん断っています。そこで、コロラド州やユタ州の鉱山開発に力を入れています。もともと、バナジウムやコバルトには微量のウランが含まれているので、それらの鉱山の再調査も行っているようです」


「そうか。順調に採掘が進めば、アメリカはどのくらいで核開発に成功すると思う?」


「不確定要素が多いのですが、早ければ一年程度で完成させる可能性があります。イギリスとドイツについても同じくらいではないでしょうか」


「一年か・・・」


 高城蒼龍は腕を組んで椅子に座った。背もたれに体を預けて天井を見る。一年後この大戦がまだ終結していなければ、いずれかの国が核兵器を使うことになるだろう。それだけは何があっても防がなければならない。特にドイツとアメリカには開発をさせてはならないのだ。


「森川中佐。ドイツの核開発拠点の洗い出しを頼む。ピンポイントで爆撃を加える。アメリカには、さすがに爆撃を加えることは出来ないからな。なんとか妨害できる方法を検討しよう。それに、この大戦を早く終わらせなければならないな。我々に残された時間はあと一年ということか・・・」


-----------

あとがき


3月18日(月)は休載します。東京で打ち合わせのため。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る