第156話 チタ急襲
1939年9月13日午前0時
清露国境から約500kmにあるシベリア鉄道沿いの町、チタ。この町から5kmの処に、夜間パラシュート降下作戦が行われていた。
月の出ていない真っ暗な闇を、日本陸軍の輸送機156機が低空で飛行している。そしてそこから、一機当たり64人の空挺部隊が落下傘降下を始めた。
夜間の降下は非常に危険な作戦だ。しかし、この作戦のために訓練に訓練を重ねていた兵士達にとって、対空砲火の無い夜間降下など、今となっては造作も無いことだった。
暗視ゴーグルを付けて地面を見る。輸送機からの赤外線照射によって、地上は昼間と思えるくらい明るくはっきりと見えている。
さらに、輸送機からは2tトラックや軽装甲車などもパラシュート投下された。
空挺隊員5120人、2tトラック100台、軽装甲車78台の大部隊だ。補給部隊が随伴していないので、戦力としてはほぼ一個歩兵師団に相当する。
何台か横転した車両があったが、これだけ人員がいれば引き起こすのは簡単だ。降下時に、怪我をした隊員や故障した車両も多少あるが、作戦に支障を来すほどでは無い。
空挺隊は速やかにトラックや軽装甲車に分乗し、チタの町を目指した。
――――
チタの町は、国境から500km以上も離れており、ここが戦場になるなど、ソ連軍の誰も想像していなかった。その為、チタに配備されているソ連軍は、300人規模の歩兵と通信部隊のみだ。滑走路はあるが、国境から遠いため実戦部隊が常駐しているわけでも無い。
日本陸軍は宇宙軍からの情報で、チタの兵員規模と、軍の施設や警察の場所を詳細に把握している。そして、事前訓練の通り次々と拠点に突入していく。
―――
チタのソ連軍駐屯地では、日本軍輸送機の音を感知し、戦闘警戒態勢を敷いていた。しかし、兵士は300名しかいない。さらに、全員に行き渡るだけの小銃も無いのだ。国境から500km以上離れていることもあり、モスクワも東部方面軍もここが襲われるなど考えたことも無かった。
9月13日午前0時10分
「航空隊より連絡です!敵の爆撃を受けているとのことです!」
現地指揮官はイルクーツクにある東部方面軍司令部に、日本軍から爆撃を受けていると打電した。日本軍の規模は不明。しかし、友軍の規模を考えると、とてもではないが持ちこたえることなど不可能だ。
――――
午前2時
「400m先に防塁がある。土嚢を積んだだけの簡易なものだな。ハチヨンで無力化できるか?」
※ハチヨン 宇宙軍が開発した84mm無反動砲。いわゆるバズーカのような携行兵器
無反動砲中隊が素早く準備に入る。無反動砲は成形炸薬弾で戦車を破壊することが主な仕事になるが、宇宙軍が開発した84mm無反動砲は普通榴弾も発射出来るので、簡易な防塁なら吹き飛ばすことが出来る。
――――
「なあ、国境から500kmも離れてるのに、本当に日本軍が来るのかな?」
「お前も飛行機のエンジン音を聞いただろ。航空隊は爆撃をされてるんだ。占領のために空挺部隊が来ていてもおかしくないだろ」
「空爆だけで終わってくれないかな・・・」
誰しも戦争は怖い。日本軍の襲撃が間違いであって欲しいと願っていた。
すると、遥か前方の暗闇で20個ほどの発砲炎が突然現れた。
「こ、攻撃だ!日本軍からの攻撃が始まった!」
次の瞬間、十数発の84mm無反動砲の榴弾が防塁に着弾した。そこに居た8名のソ連兵は、何の反撃も出来ず一瞬で無力化されてしまう。
榴弾の爆発音は町中に響き渡った。そして、部隊を音のした方向に向かわせる。しかし、そこに日本軍の軽装甲車が、ベルト給弾式の7.62mm車載軽機関銃を撃ちながら突撃してきた。
――――
「敵は多数の装甲車で突撃してきます!防ぎきれません!」
「国境から500kmもあるんだぞ!どうやって装甲車なんか持ち込んだんだ!?まさか、輸送機からの投下か?」
当時の輸送機は、開口部が横についてあるものばかりなので、車両を乗せることは難しかった。しかも、着陸してから下ろすのでは無く空中から投下するなど、常識では考えられない。
軽装甲車は、装甲が薄いとはいえ歩兵の小銃で撃ち抜かれることは無い。軽機関銃を撃ちながら浸透し、その後に2tトラックに乗って侵入してきた歩兵が、次々に拠点を制圧していった。
――――
戦闘開始から8時間経過した朝10時
「チタの制圧が完了しました!」
「滑走路の制圧も完了したと報告がありました!」
「我が方の損害は、戦死3名重軽傷者22名です」
チタのソ連軍は満足な反撃も出来ないまま、日本軍に制圧された。
ソ連軍にとって幸運だったのは、小銃の配備数が少なかったため捕虜になった兵士が多かったことだ。もし、全員に武器があれば、日本軍に抵抗してそのほとんどが戦死していたに違いない。
捕虜になったソ連軍兵士は、日本軍のあまりの多さに驚く。こちらは300人くらいしか居なかったのに、日本軍は5,000人以上は居るようだ。兵員の数だけで20倍近くだ。これで抵抗できるわけが無い。
それに、日本軍の装備にも驚かされた。全員、防弾チョッキの様なものを着ていて、その上には、非常に機能的に見えるベストを身につけている。脇には何本もの予備マガジンがポケットに差し込まれており、しかも、そのポケット等は“バリバリ”と音を立てて剥がし、また取り付けることができるようだ。
小銃も長い弾倉を装備してフルオート射撃ができるようだった。弾倉には30発くらいは入りそうだ。ソ連軍が装備しているモシン・ナガン小銃は、クリップ式5発弾倉だ。しかも、一発発射したらボルトを手で引いて排莢しなければならない。どんなに熟練した兵士でも、秒間2発が限度だ。これでは、同じ人数がいたとしても、実質の戦力比は数倍にもおよぶ。
また、日本兵が身につけているヘルメットも理解しがたかった。皆、ヘルメットに付いているマイクで無線通信をしているようだ。無線機があんなに小型化できるものなのか?それに、ヘルメットに双眼鏡を取り付けている兵士も居る。
何と先進的で機能的な装備なのだろう。
ソ連軍兵士は、日本軍との装備の違いに愕然とするのであった。
――――
1939年9月13日の戦闘で、日本軍はノモンハンソ連軍とウラジオストクの壊滅、そして、国境からシベリア鉄道沿いに530kmまでの制圧に成功した。
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