第154話 大本営発表
1939年9月13日午前5時 宮城(皇居)
ソ連との開戦後、初めての大本営が天皇臨席の下、開催された。
海軍
伏見宮軍令部総長
高橋三吉軍令部次長
田中作戦部長
増田作戦課長
陸軍
閑院宮参謀総長
西尾寿造参謀次長
富永作戦部長
新田作戦課長
宇宙軍
高城蒼龍参謀総長
森川参謀次長
米倉作戦部長
三宅作戦課長
※宇宙軍に関しては戦時特例人事
「・・・・・潜水艦22隻、軽巡5隻の撃沈を確認。ソ連の商船等への攻撃はしておりません。海軍からは以上になります。」
「・・・・・ソ連軍ノモンハン陣地および航空基地を完全に破壊しました。戦車装甲車200両以上、航空機100機以上の破壊を確認しております。また、ウラジオストクにおいて、重巡4隻、軽巡および駆逐艦18隻撃沈もしくは大破を確認。航空機については、露天駐機の約80機を撃破確実、格納庫内の航空機にも甚大な損害を与えました」
伏見宮軍令部総長と閑院宮参謀総長が誇らしげに天皇に報告をする。二人とも鼻息が荒い。
海軍にとっては、日露戦争の日本海海戦以来の大戦果だ。主砲の派手な撃ち合いこそ無かったが、たった一夜で27隻もの撃沈を確認している。作戦開始前に、山本五十六や小沢治三郎らが、空母打撃群も参加させてくれと嘆願してきたが、これは軍令部の決定によって却下された。
空母打撃群はアメリカの動きを牽制するために、南鳥島近海と台湾近海に展開させる必要があったのだ。
高城は、陸海軍が興奮ぎみに戦果を発表するのを見て、真珠湾攻撃の後もこんな感じだったんだろうなと思った。
ウラジオストク攻撃では、艦船や航空機のみならず、発電設備や燃料備蓄設備も破壊している。これで、極東の海は完全に抑えることが出来た。あとは、シベリア鉄道沿いに、モスクワを目指すだけだ。
「チタにあるソ連軍航空基地および国境から100km以内の航空拠点も空爆によって甚大な損害を与えております。この地域では、ソ連の航空戦力をほぼ封じたと言って良いでしょう。現在、第11空挺師団がチタにて戦闘をしております。さらに、陸軍第一方面軍の12個師団が満洲里への集結を完了しており、本日午前6時に国境を越え、オトポール(現ザバイカリスク)の制圧を目指します」
閑院宮参謀総長が意気揚々と今後の作戦を説明する。ソ連との戦争は陸上が中心だ。陸軍だけでケリを付けると意気込んでいた。
そして新聞各社には、赫赫たる戦果を上げたとの“大本営発表”がされた。
――――
<ウラジオストク軍港>
ウラジオストクの空がだんだんと白んでくるころ、被害状況を調べていた兵士達が続々と報告に来た。
「沿岸砲台は完全に破壊されています。内部にあった弾薬に誘爆したようで、砲台跡には巨大なクレーターのみがあります」
「湾内に居た艦艇のほとんどに爆弾が命中しており、火災が発生しております。港湾設備や発電設備も破壊されており、修理や復旧は困難な状況です」
「航空隊と通信が回復しました。現在動ける機体の確認中ですが、100機近くが破壊されたとのことです」
「日本海に展開している潜水艦とは、いずれも連絡が取れません」
日本軍の空襲からしばらく経って、無線は回復していた。中長波通信も回復したため、潜水艦を呼び出しているがまったく応答が無い。
ウラジオストク太平洋艦隊司令のスヴォロフは、被害状況を聞いておかしな事に気づく。ほとんど全ての爆撃が艦船や重要施設に命中しているのだ。そして、道路や空き地への着弾は全くない。
爆撃というものは、たくさんばらまいて、その内数パーセントから10パーセント程度が命中すれば良い方だ。しかも、夜間に爆撃をして、目標に命中するはずなど無い。
「モスクワに被害状況を知らせろ。それと、日本軍は恐ろしく命中精度の高い爆撃を夜間に行える。妨害電波によって通信も遮断できることも伝えるんだ!」
爆撃はピンポイントで高射砲台や重要施設・艦船に命中している。高空から、しかも夜間にこんな精密爆撃が行えるなど、考えられないことだった。
ウラジオストク太平洋艦隊司令のスヴォロフは、日本軍の能力を甘く見ていた。注意しなければならないのは巨大空母のみで、陸上機の兵力などたかが知れていると考えていたが、夜間にこれだけの命中精度を実現できるのであれば、少数の兵力と侮っていては今後も痛い目を見るのは明らかだ。
1932年のクレムリン爆撃の事は極秘にされてはいたが、日本軍爆撃精度が異常に高い“可能性”のあることは、軍内部で共有されていた。しかし、爆撃精度が高いと言っても命中率がせいぜい何割か高いくらいだろうとの認識だった。それが100発100中なのであれば話が変わってくる。通常の爆撃命中率が10%であったとしたら、これが100%なのだから、実質の戦力は10倍になるということだ。
「同じ機数でも、実質は10倍の差があると言うことか・・・」
軍港としての能力は完全に失われた。備蓄の燃料もすべて燃やされている。あとは、航空隊に使える飛行機が残っていれば、一回くらいは反撃ができるかもしれない。しかし、おそらくそれで全滅するだろう。
司令のスヴォロフは日本軍に戦慄を覚えるのであった。
――――
9月13日午前6時
清帝国満洲里(ソ連との国境の町)
パッパラパパパパパパッパラパパパパー
集結している日本軍のあちらこちらから突撃ラッパの音が響く。今世の1939年において突撃ラッパを使用することは無いのだが、このソ連領内への侵攻に際して、陸軍第一方面軍の多くの師団長から突撃ラッパを使いたいとの申し出があったため、例外的に許可されていた。
兵士達は、この突撃ラッパの音を聞いて、士気はこれ以上無いくらいまで高まった。皆「おおおおおおおおおおお!!!!!!」と雄叫びを上げなら国境を越える。
後方からは300門にもおよぶ友軍の150mm榴弾砲が止めどなく撃たれ、7km先のソ連軍陣地を爆炎に包んでいる。
そして80両の九六式主力戦車を先頭に、九七式中戦車改などの装甲車合計220両が突貫を開始した。少々の抵抗は覚悟の上だ。一気に押し込んでオトポール駅の制圧を目指していた。
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