第113話 スーパーキャリア(2)

 場所は、犬吠埼から東へ80kmの海上が指定された。


 天皇の御召艦は“空母赤城”が用意された。この時期、天皇の御召艦は戦艦になることが通例になっていたのだが、今回は天皇の強い要望によって空母赤城になった。陸軍海軍からの参加者も、一緒に御召艦に搭乗している。当時の赤城は、近代化改装前の三段空母だ。


「源田大尉殿。10万トンの巨大空母は楽しみですね!それに、宇宙軍の新型戦闘機も興味があります」


「そうだな、加藤中尉。10万トンの空母など、想像もできんよ。この赤城も巨大だが、それでも全長260メートル、排水量は4万トンだ。それが337メートル10万トンだぞ。これなら艦載機も200機は乗るんじゃ無いのか?しかもそれが二隻だ」


 源田と加藤はあの一件以来、よく連絡を取るようになっていた。陸軍航空隊と海軍航空隊の交流もはじまり、良い影響が出てきている。


「貨物船を改装したと聞きました。アメリカやイギリスでは300メートル級の貨物船や貨客船が何隻も就航していますので、その気になればすぐに巨大空母を作れるかと思うと恐ろしいですね」


「そうだな。日本に出来ることは他の列強でもできると思っておかないとな。それと、戦闘機では無くて戦闘攻撃機ということらしいぞ。戦闘も爆撃も出来ると言うことだが、中途半端な機体になっていなければ良いのだがな」


 二人は到着まで、期待に胸を膨らませて想像を語る。


 それを冷めた目で見ている軍人がいた。石原莞爾大佐だ。


 ――――


 指定された緯度経度の場所に到着したが、宇宙軍の空母は見当たらない。


「どういうことだ?場所は間違っていないのだろう?」


「はい、小林大将。たった今宇宙軍より入電がありました。これから航空機を向かわせるとのことです」


「なるほど。それで陛下は赤城をご所望されたのか。しかし、赤城では大型機の離発着は出来ぬぞ。陛下を爆撃機の後席にでもお乗せするつもりか?まあ、陛下がご了承のことなのだろうが・・・・」


 数分が経過した。


「接近する航空機を発見。機数4、距離20,000m」


 観測所から連絡が来る。


「宇宙軍より入電。迎えの航空機4機の着艦を求めています」


「着艦を許可する。しかし、赤城に着艦するのは初めてだろう?大丈夫なのか?」


 皆が見守る中、宇宙軍の航空機が近づいてくる。ずんぐりむっくりとした機体は、輸送機であればそんなものかと思う。しかし、翼が無い。よく見ると、機体の上に“何か”が見える。非常に薄い何かが回転しているように思えた。


「あれは、オートジャイロか?」


 ※1930年代には、数種類の実用的なオートジャイロがイギリスなどで生産されていた。


 その航空機は“バタバタバタバタ”という音を立てながら200km/hほどで近づいてきた。そして、赤城と速度を合わせてまっすぐに着艦をする。


「あんな大きなオートジャイロは初めて見るな。あれも宇宙軍製か?」


 正確にはオートジャイロでは無くヘリコプターだ。しかし、この当時、ヘリコプターは実用化されておらず、機体の上にローターのある航空機はオートジャイロという認識だった。


 着艦したヘリコプターから小柄な女性兵士が降りてくる。


「宇宙軍 島崎曹長であります。お迎えに上がりました」


 天皇は閑院宮陸軍大将と伏見宮海軍大将と共に乗り込む。そして、その他の披露会参加者もヘリコプターに分乗して飛び立った。


 発艦の際、オートジャイロを知るものはおかしな事に気がつく。


『このオートジャイロは滑走をしなかったが、どうやってローターを回していたのだ?そういえば、ローターはずっと回転していたが、どういうことだ?』


 オートジャイロは通常の航空機と同じように滑走し、その向かい風でローターを回すようになっている。着陸の時は、比較的まっすぐに降りることは出来るのだが、離陸の際は滑走する必要があった。


 そして、4機のヘリコプターは海上を進み、大型空母の待つ海域へ向かう。


「前方に見えてきました。一号空母と二号空母です」


 機長からのアナウンスがある。そして、キャビンの窓からも見えるように機体を少し横に向ける。シートベルトを着用しているので動くことは出来ないが、それでも少しでも首を伸ばして空母を見ようとする。


「えっ?」


 みな遠近感がおかしくなったのかと思った。それは、空母と言うにはあまりに大きすぎた。大きく、幅が広く、直線だけで構成されているこの船は大雑把に思える。まさにそれは海に浮かぶ航空基地だった。


「これが空母?日本の科学は、技術はこんな巨大な物を作ることが出来るというのか?」


 注)船体を作ったのはアメリカです


 全長もさることながら、その全幅もすさまじい。戦艦長門の最大幅は34.6mだが、この空母の最大幅は76.8mもあり、実に長門の二倍以上だ。長門と陸奥が並んでも、この空母の方がまだ大きいと言うことに、一同驚愕する。


 ヘリコプターは順次空母に着艦していく。


 今回は空母のお披露目と同時に、陛下に命名を賜ることになっている。その為、艦橋横には白い天幕が張られ、式典が行える準備がされていた。


 参加者は、一分でも速く空母の案内をしてもらいたかったのだが、陛下がご臨席で式典を行うと言うことなので、はやる気持ちを抑えながら式典会場に向かう。


 そして、宇宙軍儀仗隊と軍楽隊による栄誉礼が行われる。儀仗隊と軍楽隊のほとんどは女性兵士であった。


『華やかだな・・』


 儀仗隊は濃紺の制服に、軍楽隊は白い制服に身を包んでいて、とても華やかだ。みな、化粧も完璧に決めており、陸海軍の将官将校達を魅了する。


『うちの息子の嫁になってくれないものかな。陛下にお願いできないものか・・・』


 などと考える高官もいた。

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