【書籍化】大日本帝国宇宙軍 ~1901年にタイムスリップした俺は、21世紀の技術で歴史を変えることにした~

朝日カヲル

第1話 ノモンハンの悪魔(1)

1939年9月  ノモンハン


「くそ!くそ!何だ、あの機体は!本当に日本軍の機体なのか!?」


I16の操縦桿を握るソビエト連邦軍ペトラコフ中尉は叫ぶ。自分たち小隊の遙か上空の雲間から現れた数機の敵航空機は、反転しながらすさまじい速度で急降下を開始し、小隊の後方上空から攻撃を仕掛けてきた。


小隊の僚機はすぐさま散開し回避を図るが、クライネフ少尉の機が喰われた。


ペトラコフ中尉が所属するソ連軍モンゴル派遣旅団は、日本陸軍が不法に占拠するノモンハン陣地を爆撃するために出撃していた。航空優勢はソ連にある。いつもならお買い物に行くような簡単な仕事のはずだった。いつもなら・・・


「セムコフ少尉!クライネフ少尉がやられた!一度高度を取って敵機を撃つ。我に続け!」


我が国の品質の悪い無線機だと、僚機に伝わったかどうか怪しいが、伝わったことを信じて操縦桿を引く。僚機からの返事は無い。


急降下していった相手を追うのは愚策だ。相手の方が速度が出ているし、自機も高度を下げてしまっては敵機に上を取られる可能性がある。


「他の小隊は?」


周りを見ると他の小隊も攻撃を受けているようだ。今回の出撃はI16の6小隊18機と爆撃機24機による出撃だ。このノモンハンにおいて、現在ではソ連が航空優勢を取りつつあった。操縦席の後ろに防弾鋼板を設置したことにより、日本軍97式戦闘機の7.7mm機銃では、パイロットに致命傷を与えることは出来なくなっていた。燃料タンクにはセルフシールが施され、直撃を食らっても火災が発生することは希だ。日本軍機相手なら、このI16はまず撃墜されることは無いはずだった。


煙を吐きながら降下していく味方機が見える。最初の会敵で数機がやられたようだ。


「中隊長からの指示はまだ出ないのか?」


敵機からの来襲があれば、中隊長から何かしらの指示が出てもおかしくない。良く聞くと、無線機からはいつもより大きめのノイズだけが聞こえている。


「くそっ!このボロ無線機め!こんな時に故障かよ!」


我が国の工業製品の質の低さに罵声を浴びせる。ペトラコフ中尉は高度を取りつつ、先ほど攻撃をかけてきた敵機を目で追いかける。敵機には日の丸が見えるので、日本軍機に間違いない。しかし、見たことの無い機体だ。今まで相手にしていた97式戦闘機より少し大型で、速度が全く違う。それに、主脚が出ていない。どうやら日本も引込脚を実用化出来たようだ。


敵機は急降下した後、機体をひねりながら急上昇に転じた。ものすごい速度と機動だ。このI16であんな機動をしたら、とてもでは無いが主翼が持たないだろう。第一、あんな動きに普通のパイロットが耐えられるはずが無い。


日本軍機はみるみる上昇して行き、先に上昇を始めた我々より早く高度6000メートル付近に達する。そして背面飛行から機体をさらに回転させて我々の後方上空を占める。


「だめだ、逃げられない!日本軍の戦闘機は化け物か!?」


I16の最高速度は約460km/h。しかし、敵機はどう見ても600km/h以上は出ている。急降下に至っては800km/h以上出ていたのでは無いだろうか。


「ありえない!何なんだ!」


今までの日本軍機とは比較にならない性能。いや、この時代において、こんな高性能な機体があるのだろうか?


―――――


「さすがだな。この十一試戦闘機は・・・」


分隊長の槇村大尉は、3小隊合計9機分隊で高度8,000mを飛行していた。ソ連軍爆撃機24機と戦闘機18機の迎撃である。敵機に発見されないよう、雲に隠れながら飛行する。


突如現れた戦闘機は、日本帝国宇宙軍が開発している十一試戦闘機。昭和十一年にプロジェクトが始動した新型制空戦闘機だ。全長10.80m、全幅10.55m、エンジン出力2,800馬力(7,000m)、最高速度800km/h(8,200m)、プロペラは後退角のついた6枚で、プロペラ先端が遷音速を維持しながら、衝撃波を発生させない設計がされている。


「チャーリーブラウンよりウッドストックへ。バンディッドの位置は11時の方向50km、高度4,800mを400km/hで接近中」


哨戒機(チャーリーブラウン)からの無線が入る。1938年に制式化されたばかりの98式無線機の音声は非常に鮮明だ。音声は無線機によって自動的に暗号化され、受信時に復号される。従来の無線機に比べてほんの一瞬の遅延があるが、音声は非常に鮮明であり、敵に傍受される可能性が無い。ちなみにバンディッドとは敵の事である。英語がよく使われるのは、司令官の趣味だ。隊員も、なんとなくアカデミックな感じがして親しんではいるが、陸軍や海軍からは”米かぶれ“と揶揄されている。


「こちらウッドストック。了解した。これより迎撃に入る」


こちらの速度が700km/h、敵が400km/hなら相対速度は1,100km/h。距離50kmだと3分足らずで会敵する。


「バンディッドを左下方に確認。全機、攻撃を開始」


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