第6話 朝食1
ふかふかの寝具、肌に触れるのは清潔なシーツだ。気持ちよく眠った。大きく伸びをして、起き上がって、アリエルは驚いた。
「すみません!」
昨日、世話になった竜騎士が、床に寝ていた。
「起きたか」
こちらの大声で目を覚ましたらしい。ゆっくりと起き上がった。昨夜のうちに、この地方の領主の館についた。館の主は、夜半を過ぎての竜騎士達の到着を驚きながらも迎え、部屋を用意してくれた。返り血を浴びたアリエルに湯あみをさせてくれ、着替えの服も用意してくれた。
湯あみの後、用事があると呼ばれ、団長の部屋にきたことまでは覚えていた。ちょっと待っていろと言われている間に寝てしまったらしい。椅子に座っていたように思うが、ベッドに移動しているのは、雇い主である竜騎士が、移動させてくれたのだろう。
「すみません。私、寝台をとってしまって、あなたが床なんて」
アリエルの雇い主である。今日から、いや、昨晩から。優しかった養父を亡くし、行く当てのなかったアリエルを、この人は竜丁として雇ってくれるといった。彼の部下が乗る、気難しいらしい竜達に懐かれたからだ。二頭とも、巨大だが、大型犬のように、こちらの非力さを理解したうえで、頭を寄せて、慰めてくれた。撫でて欲しがるから、彼の言うことは信じられなかったが。竜丁になれと、竜達もいってくれた。
確かに、昨日、彼の部下は、アリエルが竜を撫でまわすのをみて驚愕していた。竜二頭にすりつかれていたときも、何人もの竜騎士と目があった。
「構わん。昨日はお前にとって慣れないことばかりで疲れたろう。休めたのならそれでいい」
言葉通り、竜騎士は、自分が床で寝ることになったことを、気にしていないようだった。
「ありがとうございました。よく休めました」
アリエルは率直にお礼を言うことにした。
領主の館の食堂で、朝食をとることになった。昨日見た竜騎士達と、領主とその家族が大きな長方形の卓に座っていた。竜騎士の後についてきた、アリエルをみて、先に席についていた竜騎士たちが硬直し、領主たちは詮索するようなまなざしを向けてきた。
「この娘は、竜丁として、王都に連れ帰る。トールが懐いているから、問題はないだろう」
「しかし、女です」
昨夜も同じことを言った男に賛同するように、竜騎士たちが頷く
「竜丁というのは、男の仕事ですか」
アリエルは首を傾げた。
「そうだな。竜が暴れた時に、綱をかけて抑えたりするから、力がいる」
昨日、撫でて欲しそうに頭をよせてきたあの竜が、暴れるとは信じがたい。竜騎士がいうから、本当なのだろうが。
「村娘の私に、そんな力はありませんが」
あの大きな生物が暴れたときに、人間が束になってかかったところで押さえられるかも疑問だ。
「お前相手に、トールやヴィントが暴れるとは思えん。あの二頭が気に入ったというだけで、娘、お前に価値がある」
「確かにそれはそうです。しかし、女です。お立場をお忘れですか」
昨夜、庭で待っていた竜騎士が、アリエルをにらんでいた。
「マリアも女だな」
二人のやり取りに、他の竜騎士たちは少し落ち着きがない。アリエルはなぜか、そんな二人に挟まれる席に座らされた。
アリエルの左隣は、昨夜からアリエルを気に入らないらしいあの騎士だった。右側に座るアリエルの雇い主は、そんな部下を平然と無視しているが、険悪な雰囲気が漂い始めていた。
朝食は、村の食事より格段に豪勢な食事が運ばれてきた。アリエルは食事に集中することにした。
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