第2話 ようじょせんぱいのお弁当!


SE: 扉の開閉音


おお、いらっしゃいです、後輩くん


逃げずにちゃんとやってきましたね!


褒めてあげます!


……正直、もし来なかったらどうしようと、気が気じゃなかったです


来てもらえて嬉しいです


……おっと


とはいえ、なれ合うつもりはありません!


勝負ですからね!


「なんの?」って……


だぁ~!


言ったじゃないですか!


わたしが先輩らしいオトナの女であることを認めさせる、と


そんな遠い昔の話聞いたみたいな顔しないでください!


つい昨日のことですよね!


わたし、これでも一生懸命作戦考えてきたんですから


えへへ~、褒めてもらえて嬉しいです


……じゃ、なくて!


頭なでなでしないでください!


え、いや、その、嫌じゃないですけど……


でも子ども扱いされてるみたいで、ちょと悔しいです


こほん、え~、気を取り直します


それではさっそく……


わたしがオトナの女であることを証明してみせます!


はっきり言って……


わたし、後輩くんの負けを確信しています


この完璧な作戦にひれ伏すことでしょう


さあさあ


どうしますか、逃げるなら今のうちですよ?


……って帰らないで!


ウソです、やっぱり逃げないで!?


言わせて、作戦、言わせて!


え~、コホン……


もう一度気を取り直しまして……


偉大なる先人たちは言いました


将を射んとする者はまず馬を射よ


オトコを落とさんとする者は


まず胃袋を落とせ、と!


そう、そうなのです!


オトコをトリコにする絶品料理こそ


オトナの女の証!


そう悟ったのです


……と、いうわけで作ってきました


手作りのお弁当なのですっ!


じゃ~ん


これを食べれば後輩くんもイチコロです


「あぁ、なんておいしい料理なんだ


こんなうまい料理を作れるのは


オトナの女以外にありえない


完璧で無敵の先輩様、ボクが間違っていました!」


そう涙を流しながら土下座したくなるに決まってます


だ~か~ら~、帰ろうとしないでください!


せっかく一生懸命作ってきたんですから!


……分かりました、土下座はいいです


ただ一言「先輩は間違いなくオトナのレディです」と言ってくれればそれで……


さあ、そこに座ってください


では、後輩くん


飢えた獣のように


わたしの手作りお弁当を


ガツガツと喰らいつくすがいいのですっ


SE:椅子に座る音

(あずき、お弁当の包みを開ける)

えっ、量が多い?


作りすぎ?


「お祝いでもないのに、重箱三段のお弁当なんて聞いたことない?」


「そもそも、お昼に学食のサンドイッチを食べた」って……


そ、それはその……


育ち盛りの男子高校生が、それくらいで満足できるはずがありません!


もちろんソコも計算済みです!


決して、ちょっと張り切りすぎたワケじゃないのです


文句は食べてから言ってほしいです


食べるんですか? 食べないんですか?


どっちですか?


今なら出血大サービスで、食後のコーヒー付きですよ?


……そうこなくっちゃです!


では、さっそくメニューの説明をするのです


まず一段目が定番のお弁当メニューなのです


鶏の唐揚げは


醤油とみりんにお砂糖も加えて甘辛く味付けしてみました!


逆に卵焼きは甘さ控えめに、お出汁の味が引き立つように


ご飯は炊き込みご飯にお餅を混ぜておこわふうに


ウィンナーはほうれん草と一緒に炒めてみました!


二段目は伝統的な和食です


金目鯛の煮つけに


ナスの揚げびたし


それから旬の野菜を使った……


……えっ? なんですか?


「引くほど豪華」って、なんですかその言い方!?


褒めるならもっとちゃんと褒めてください


うっ、たしかにこうしてみると


やりすぎた感はなくもないような……


「オトナの女はTPOをわきまえるもの」……


……そ、そのとおりです


うぅ、たしかにこのお弁当、冷静に眺めてみると


ちょっと痛々しいです


メンヘラ女子が初めてできた彼氏に作ったような


重々しい香りが、そこはかとなく漂ってきます


あうぅぅぅ……


とんだ作戦ミスでした


このお弁当、戦う前から敗北決定……でしょうか?


えっ、そんなことない?


「一生懸命作ってくれて嬉しい」って……


わ、わたしはただオトナの女であることを証明したかっただけで……


別に後輩くんのために一生懸命になったとか、そういうわけじゃ……


……はい、一生懸命作ったのはほんとです


昨日はお弁当の仕込みに時間をかけ過ぎて、


正直寝不足です


二限目でも三限目でも居眠りして怒られました


うぅ、こんなんじゃ、オトナの女失格です……


……ちょっと、なんで笑うんですか!?


……あっ、はい。もちろんお箸も用意しています


(後輩くん、「いただきます」とお弁当を口にする)

あっ、えっと……


そ、その……お味はどうですか?


すごくおいしい? 


ほ、ほんとですか!?


良かった~


お世辞抜きで?


お店に出せるくらい?


んふふ~、褒めすぎですよ~


えへへへへ


まだまだたくさんあるから、どうぞです


ふっふ~、そんなにおいしそうに食べてもらえると嬉しいですね~


がんばった甲斐がありました!


えっ、勝負?


も、もちろん忘れてませんよ


どうですか、見直しましたか?


わたしがオトナの女であると認めますか?


……まだまだですか


……シュン


そうですね、意味なく張り切り過ぎたのは、大人っぽくなかったです


ここから挽回するにはどうすれば……


えっ? ええ~!


「あーんして食べさせてほしい」って……


な、なんでそんなこと……


た、たしかに言われてみれば……


それ、先輩っぽい気がします!


オトナの女の余裕を感じます!


しっ、仕方ないですねぇ


後輩くんはほんとに子どもなんだから……


じゃ、じゃあ、わたしがと・く・べ・つに!


あ~んして食べさせてあげます


い、いきますよっ


じ、じっとしていください


(あずき、箸でおかずをつまみ、後輩くんの口に持っていく)

や、やっぱりそんなじ~っと見られると、そ、その……ふわぁ……


き、緊張してしまいますっ


「じゃあ、どうすれば」って言われても……分かりません!


と、とにかく口を開けて、待っていてください


は、はい、あ、あ~ん


……どうですか、おいしいですか?


「さっきよりおいしくなった気が」ってほんとですか!?


ふふっ、これけっこう楽しいかもですね!


では、もう一口、どうぞ!


あ~ん


ん~、いい食べっぷりですねぇ


腕によりをかけた甲斐がありました


へっ?


わたしも食べるんですか?


これ、後輩くんのために作ったのに……


わたしが自分で食べるのは変じゃないですか?


えっ、まあ、たしかに一人で食べきれる料理じゃないですよね……


じゃあ、お言葉に甘えまして……


いただきま~す


えっ、なっ!?


だ、大丈夫です!


わたしは一人で食べられます!


「オトナの女はあ~んくらいで動揺しない」って……


後輩くん……


さっきからわたしのこと


「オトナの女は……」って言っておけばなんでもする


チョロい女だと思ってませんか?


……そこは否定してくださいよっ!


もう~!


し、仕方ないですねぇ


む~……


じゃ、じゃあ、一口だけ食べさせてください


あ、あ~ん


(あずき、後輩くんの箸からお弁当を食べる)

もぐもぐ……


あ、味? 緊張しすぎて、よく分からなかったです


じゃあ、もう一口って……まだやるんですか!?


あ、あ~ん


おいしい……おいしいです! 


もう味分かったので、大丈夫です


……顔真っ赤?


そ、そんなことないです!


ちょっと唐辛子を入れ過ぎました!


「そういうことにしておく」って


あ~もう!


あとは、自分で食べられますので、一緒に食べましょう!


(あずき、後輩くん、二人でお弁当を食べる)

そうです、そうやって素直にしていれば……


けっこう後輩くん、かわいいんですから


へっ? いまわたしなんて言いました?


うわぁっ、やっぱ無し、いまの無しですっ!


ああ~、もう、分かりました、分かりました!


今回はその……引き分け、ということにしてあげます


ですが、次こそわたしがオトナの女だと言うことを証明してあげますからね


……当たり前です


まだやるに決まってます!


明日も当然、来てください!


そうと決まれば、まずは腹ごしらえです


腹が減ってはいい勝負はできませんからね!


減ってない? むしろパンパン?


まあ、そう言わないで……


えっと、さっきは説明途中で終わっちゃいましたけど、


三段目は甘味の詰め合わせです


甘いものは別腹ですからね


えっと、まずこれがみかんのゼリーで……


こっちがチョコを作ったプリン


それと……


まあ、解説はこれくらいにして食べましょう、食べましょう!


後輩くん、好き嫌いはないほうですか?


それは素晴らしいです


ああ、それは特に自信作でして――

(二人、お弁当を食べながら仲良く雑談・フェードアウト)

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