23話『戦い方』

23話『戦い方』


 フーガ、ホルンと食事をした次の日、まだ夢の中のホルンを横目に、カナデはフーガと共に身支度をしていた。

フーガはアイテムポーチに入れた回復薬などの確認をしているようだ。


「フーガは今日も依頼?」

「いや、まだアリアも帰らないし、久々にゆっくり羽を伸ばすつもりだ」

「そっか。たまには休まないとね」

「あぁ。ホルンさんが起きたら家まで送るついでに散歩でもしてくるさ」

「ありがとう、よろしく」


フーガは無言で頷き、またアイテムに目を落とす。

サイズの割に結構入るんだな、と感心した。

だが、少なくとも異次元ポケットや異空間収納などではなく、フーガ自身の空間把握能力があってこそのようだ。


 フーガの器用な一面を見ながらカナデは準備を終わらせた。

最後にナイフを腰に携えて、フーガに声をかける。


「じゃあ、そろそろ出るね」

「おう、またいつでもこい。歓迎する」

「ありがとう。行ってきます」

「気をつけてな」


フーガに手を振り家を出たカナデは、久々の『行ってきます』という言葉に少しほっこりしながら、ゆっくりとギルドへの道を歩いた。


 ――クラヴィーア王国最大の森『大森林』

その森の奥深くへ、3人の新人冒険者が迷い込んだ。


「へへっ!ここの魔物たちも大したことないな!」

「あぁ、俺たちの敵じゃーよ」

「……ねぇ、もう戻らない?さすがに進みすぎよ」

「なんだ?びびってんの?!」

「そ、そんなんじゃないわよ!」


騒がしく森の中を進む男女。

自信家な男と弱気な女が言い合いをしていると、冷静な男が口を挟んだ。


「まぁ、確かに今日はこれくらいで帰ってもいいだろう。『ホーンラビット』も結構倒したしな。依頼はもう達成してる」

「へっ、そーかよそーかよ。まだやっと肩が温まったばっかだっつーのに」

「森は奥に行くほど魔物が凶暴になるのよ?これ以上は危険……え?なにあれ?」


女の冒険者が正面の低木の後ろに何かを見つけた。

それは黒く巨大な倒木のように見えた。

……が、よく見ると……動いている?

その倒木が進んでいると思われる方向を目で辿ってゆく。

右へ、右へと湾曲していく『それ』に光が当たり細かな鱗が見えた時には、既に『それ』がとんでもない魔物だということは容易く理解していた。

そして、彼女が恐怖に支配されるのにも時間はかからなかった。


「……ねぇ……ねぇ、も、もしかして、か、か、囲まれてる?……ねぇ、ねぇ、ねぇ!」


恐怖に駆られながら、答えぬ仲間に痺れを切らし後ろを振り返る。

しかしそこに仲間の姿はなく。あったのは巨大な白い鱗の壁だった。


「あ……あぁ……」


足元から声が聞こえ目線を向ける。

そこには、先ほどまで威勢がよく元気だった仲間が、2つの大穴を体に開けて虫の息で倒れていた。


『ゴキッ……ボキッ』


今度は頭上から音が聞こえる。

恐る恐る見上げた先にあったのは、人の足をちょうど飲み込んだばかりの巨大な蛇の頭であった……。


 ――ギルド本部の執務室、カナデはフィーネに案内され、ギルドマスターの元を訪れた。


『コンコン』


「入れ」

「失礼します。マスター、カナデさんをお連れしました。」

「ん?おー、カナデか。……どうやらだいぶ鍛えてきたようだな」


卓上の書類に目を向けていたギルドマスターは、カナデの身体を少し眺めると、嬉しそうにそう言った。


「はい、マスターのおかげです」

「努力したのはお前だ。よく頑張ったな」

「ありがとうございます」

「さて、指南の続きを受けに来たのだろう?ちょうど体を動かしたかったところだ。訓練場へ行こう。フィーネ、今訓練場の利用者はいるか?」


マスターの問いを聞いたフィーネは、慣れた手つきで手帳を捲ると、数秒も経たぬうちにまたマスターの方へ向き直った。


「いえ、今日の利用者はもういません」

「わかった。では、行こうか」


そう言って歩き出したマスターの後ろに続いて、カナデとフィーネも部屋を出た。


 訓練場に到着すると、マスターは近くの倉庫らしき場所から2本の直剣を取り出すと、片方をカナデに手渡した。


「それでは、お待ちかねの剣術指南を行う。が、カナデはいい加護を持っているからな、まずはその力を見せてもらいたい。どの程度までできるかを判断して教える方が、効率がいいだろう」

「わかりました」

「よし、じゃあ、まずはあの打ち込み用の的を好きなように叩いてみてくれ」


的と言って指差した先には、古い金属製の鎧が着せられた丸太が立てられていた。


「わ、わかりました」

「緊張せず肩の力を抜け。初めてで期待はしていない」

「はい。……ふぅ」


カナデは目を瞑り小さく深呼吸をすると、静かに剣先に集中した。

そして、周りの雑音が聞こえなくなったタイミングで目を開け、背筋を伸ばしたまま右斜下へ剣先を向けるように両手持ちで構えた。


「……!やぁーっ!」


右足で地面を蹴るように飛び出し、同時に滑るように左足を前へ進める。

そして、構えた剣を地面に平行になるように少し持ち上げると、そのまま的へ向けて深く切りつけた。


『ガシャン!!』


鎧の的は派手な音を立てた。

剣の力に耐えきれず崩壊する……ということはなかったが、鎧がカナデの力を跳ね返すこともなく、均衡した力はお互いを無力化して止まった。


「……やはりカナデは面白いな」

「えっ?」


マスターの言葉を聞いて、カナデは剣を下ろした。


「初心者に『的を好きに叩け』と言ったら、ほとんどのヤツがまず上から打ち下ろして、止めるまでデタラメに振り回すんだがな。いきなり水平斬りを……しかも、あれだけ綺麗に決めるとはな。加護の力はもちろんだが、相変わらずの集中力、それと武器を振るセンスがあってこそだろう」

「えっと……ありがとうございます」

「身体強化無しで水平斬りができるのであれば、体づくりは充分だろう。ただ、あえてアドバイスするなら、カナデの体のサイズ、使い方にはその両手直剣は向かないな。少しだが、腕が剣に振り回されたように見えた。カナデの祖国の武器は片刃のもう少し軽いものじゃないか?」


剣の振り方一つで刀の存在を言い当てたマスターの洞察力にカナデは驚いた。

確かに刀は両手で扱う武器だが、この鉄の塊のような剣ほどの重みはないだろう。

刀……剣道のような動きしかしらないカナデの潜在意識が今の振り一つに現れたのだろうか?


「はい、その通りです。祖国の武器、刀は片刃のもっと細い直剣です」

「なるほど。この国に存在するものではないな。当然ここにもない。ひとまずは、この両手直剣の使い方を教えよう。やり方さえわかれば、あとは加護の恩恵で上達するだろう」

「はい。よろしくお願いします!」


 この日、カナデは両手直剣で戦う術を身につけ、長かったようで短かった剣術指南を卒業した。

最後にはマスターも目を見張るほどの技術を披露し、近くで見ていたフィーネも目を丸くしていた。


ついに冒険者カナデは、真に『冒険者』としてのスタートラインに立ったのだった。


次話『宝石獣の瞳』

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