第2話 「学園の地を踏む」


 上空、飛行機内。


《リアディアール異能学園》は、どの国にも属さない小島に建てられている。

 大島?·····いや小島だよ!!


「·····。暇だ。」


 そうだ、少しは事前に調べてみるか。

 あ、機内モードだ·····。


 ·····。


 間抜けな顔で気がついた夕雅の手には、学校のパンフレットが握られている。


「異能の集う学び島、《リアディアール異能学園》」


「こういうパンフって大した説明ないよな」


 ため息混じりに吐き捨てて、夕雅は頭に腕を組んで目を瞑った。


 リアディアール異能学園は自立した〝国〟だ。


 自治や政治は勿論のこと、輸出入まで全てが学園の手によって管理されている。


 そもそも、学園の意義は、世界中で爆発的に増加している異能保持者による犯罪に対処する事にある。


 異能保持犯罪者特別対策本部みたいな、なんかそういう警察みたいな組織があって、学園の卒業生の半分はそこに行くらしい。


 日々、過激化する異能保持者による破壊行動を阻止する為に、強力な戦力が必要不可欠だった。


 世界各国のお偉いさん方が集まって話し合った結果、異能の力を伸ばし、それによって犯罪者を取り締まる世界的な組織を発足。


 しかし、いくら異能保持者といえど、なんの知識もないままでは凶悪な犯罪者達とは戦えない。

 学園は、全国から強力な異能を持った子供達を集めて、立派な殺戮兵器へと育て上げることを目的としているのだ。


対異異能保持犯罪者特別対策組織かぁ·····」


 絶対やだわ、同僚とかバンバン死にそうだし。いやまず就職できないか·····俺、魔力制御できない爆弾だし。


 てかほんとに学園に入学できんのかなぁ·····。

 もし入学テストみたいなのあったらやばいな·····落ちるぞ俺。


 一か八かで爆発してみる?逆に合格できるかな、強キャラムーヴで。会場の安全確保できてると思ったのになぁ、みたいなちょい抜けたキャラで·····。


 やっぱやだわ、最低でも全身大火傷だし、下手しなくても死ぬし。


·····でもろくに能力使えない状態でどう授業受けるんだろう。

不安だなぁ·····。


「ま、なるようになるか·····」


考えても仕方ないね、そもそも合格の判断をした学校側の問題だもんね。俺は知らんぞ。


せっかく一人暮らしできる機会を逃してたまるか!

ガミガミカーチャンから逃げられるなら俺は殺人も厭わん。


『只今〝リアディアール異能学園領島〟上空。まもなく着陸体制に入ります』


小窓から見える蒼空が綺麗だ、もう一眠りしておくとするか·····。




◇◇◇



『三番ゲート、アメリカ行き─────』


空港のアナウンスを背後に流しながら、一人の少年が職員からスーツケースを受け取る。


黒い髪を右手でかきあげて、二度三度鼻をひくつかせて空気を嗅いだ後、少年は両手を伸ばして叫んだ。


「着いたーーー!!」


着いた!一人暮らしだ!夕雅様の悠々自適ライフだッッ!!


取りあえずと、ポケットから折り畳まれた紙を引っ張り出す。


「なるほど?ここからは係員による引率·····と」


先程から、すれ違うのは荷物を押したり、何やら忙しそうな職員ばかりで、自分と同じ様な学生らしき人物は見当たらない。


少し不安になるが、空港の出口のガラス越しに、〝引率〟とでっかく書かれた札を持つスーツ姿の人が見えた。


「あれか」


涼しい空港と外気を隔てる自動ドアを一歩跨げば、そこはもう南国·····とは言わないが、かなりの熱気が夕雅の体をワッと包み込んだ。


「引率の人ですか?」


「はい、夕雅さんですね?お待ちしてました。」


身体にまとわりつく熱気を振り払いながら、夕雅は目の前の、スーツを着た男性職員を見た。


「あ、失礼。私は栗原という者です、本日は瀬戸夕雅さんの引率と、寮生活の説明をつとめさせていただきます。」


「あぁ、いぇ、こちらこそどうも·····」


歩き出した栗原さんが、そう言って笑う。その後を着いていきながら、夕雅は思った·····。


『こういう引率って大勢で行くもんじゃないの!?俺一人?VIPなの!?』


いや一応VIPか、忘れてたけど俺、特待生だからな。

·····よく見たら栗原さんの持ってる札にちっさく〝瀬戸夕雅様〟って書かれてるし。


ちょっと気まずい。



「ぁー、栗原さんは先生なんですか?」


「ん?いえいえ、私は事務ですよ。いつもは島の管理等をしてます」


自分の仕事内容を思い出したのか、栗原さんが、暗い顔をする。·····やだよね事務仕事、分かるよ、やったことないけど。


心做しかさっきよりやつれた顔になった栗原さんを見て、慌てて次の話題を振る。


「そういえば、暑くないんですか?スーツなんか着て」


「あー、最初の方はかなりキツかったですね、いつの間にか慣れましたけど」


そういうもんなのか。人間って不思議·····。


そんな話をしながら数分·····。

緩い登り坂を登りきると、団地のような無数の建物が見えてきた。


白い建物が、少し夕陽の色を感じさせ始めた光を反射しながら、背の低い潅木に囲まれて乱立している。


「寮です」


栗原さんが簡潔に説明した。


ここが·····。


「瀬戸さんは特待生なので、通常のABC棟とは別のα棟です。」


「あ、ここじゃないんですか」


「もう少し先ですね」


なんか思ってたより特待生ってVIPだな。

·····期待が重い。


俺は大爆発することしかできないというのに·····。マル〇インかよ。

いや、マル〇インの方がいろんなことできるわ。


あれ?俺ってマル〇イン以下·····?


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