砂時計の掲示板

梶井スパナ

第1話 ねこ

 毎回見る夢がある。


 わたしの場合、少し現実につかれてる時の現実逃避っぽいんだけど、そこは砂漠の国で、石畳、石造りの家がずらっと並んで建っていて、たぶん中庭には緑があるんだろうけど、わたしの目には、土色の景色。

 全身をだぶだぶの布で覆い尽くした人たちがうろうろと数人、まあ多い時で10人、今日は少なめの5人、こちらをいぶかし気に見ている。多分普段は、足を運ばない場所なんだろうなって印象。良さげな人にこちらから声をかけると、パァッと笑顔になるから、あちらから声をかけてはいけないルールなんだと思う。

 最初にこの夢を見た時はマジで迷い込んだと思ってたから、近くにいる人にここはどこですか?って聞いたものだけど、今はまあ、そこまで不安にならない。この夢を見るのは5回目だし。


 大抵、声をかけるのは若い女性。


 女性はきょろきょろと周りを見回して、困っている様子だったから、わたしは、ふらふらと歩き出した。声をかけた女性もついてきて、周りにいた人たちも大急ぎで後をつけて来る。

 わたしが歩いていると行き止まりになって、それからじゃあと左に曲がって、また行き止まりになったから、右に行ってみた。1人2人、ぽつぽつと追いかけてきた人たちはいなくなり、声をかけた女性だけになる。するとなんとなく細い道になって、行き止まり。その壁に、大量の羊皮紙が貼られている。15cm×15cmくらいのから、短冊みたいなものまで。昨日が七夕だったから、またこの夢を見たのかな~って思った。


 すると一緒に来ていた、女性が一心不乱に壁の羊皮紙にかぶりつく勢いでしがみ付いて、内容を確認する。わたしには、文字は読めない。

 けれど一個だけ、現代日本語で書いてあるやつがあるので、「それ」という仕草で指をさすと、女性は、ハッとして「それ」に指を伸ばして、羊皮紙を見ると、そっと壁から外して、胸に抱いた。


 そして、ハラハラと涙を流して、何度も内容を確認する。


 わたしの目には「ココ」としか書いてなかったんだけど、たぶんすっごい感動する内容なんだろうなという感じ。


 女性は何度もお礼をして、その羊皮紙をもってどこかへ行くので、私もこの、茶色高めベージュの街から早く帰らなければと思う。


 いつもなら、ここで目が覚めるのだけど、その日はまだ続きがあって、足元に茶トラの猫がいた。猫がニャーというのは、人間に話しかけた時って言うけど、本当だろうか。私は「ねこ」と声に出してみると、茶トラの猫は「ニャー」と言った。声をかけたことが成立したのかな?と思って、わたしはふらふら歩きだすと、猫もあとをつけてきた。


 猫ちゃんが後ろにいるのは楽しいもので、わたしははじめてその街を散歩している気分になって、建物が何階建てなんだ??と思ったり(三階だてっぽかった)風の音だけで、本当に人が住んでるのかな?もしかして、塀なのかもしれないなどと、観光地に来たような不思議な散策をした。


 狭い路地に通りかかって、これは旅の終わりかなと思った。

 猫が、わたしの横を通り過ぎていく。ああ終わりだなと思った。人間と同じ行動だしね。


 その後をつけていくと、言葉だけが張り付いている壁になると思っていたわたしは、自分の浅はかさを呪った。


 広い草原に、朝陽が登っていて、辺りを白く、薄紫に染めている。風がそよいで、今まで砂煙に覆われていた世界が、清浄な空気になった。そこには猫が数十匹いて、もう茶トラの姿はわからなかった。


 大体の人間のように、お礼とかはなくて、用が済んだらお別れなんだって思って、少し寂しかったけど、人間みたいにメモを残すんじゃなくて、直接そこに行ける猫のほうが、人間より面倒が無くていいなと思った。



 目覚めると


 そこはいつもの、自室で。


 猫は当然おらず、砂漠の街もなにもないただの自室で、エアコンの切り忘れに気付いて、眼精疲労と肩こりを思い出した。


 枕元に置いてある砂時計をひっくり返して、中にある小さな模型の街を見つめる。もしかして、ここにいってるのかもしれないから枕元に置くのはやめようと思うのに、気付くとここに置いてあるので、なにかを探す人たちの必死のお願いなのかもと思って、そのままにしている。


 なにかを探し求める人にとってわたしは異邦者で、救いの手なのかもしれないしね、よくわかんないけど、たまに見る夢の話でした。

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