夕方ドーズドーズ

宇宙(非公式)

小暮ジョークトーク

 先生たちが話している。のが聞こえる。内容はだいたい想像できた。

「海斗、遅刻らしいです」

「分かりました」

 向こうの線路の新幹線が到着し、聞き耳の意味がなくなる。

「あ、のぞみだ」

 次はどこからともなく、聞こえた。いや、それは嘘だ。後ろ側から聞こえた。

「ねえねえ知ってる?のぞみって、有名な作家が、もともと出てた案のきぼう、を少し変えて提案して、こうなったらしいよ」

 へえ、そうなのか。盗み聞きではあるが、ためになった。

「うん、そうなんだ。あれはひかりだけどね」

 また新幹線の音がし始め、聞こえなくなる。代わりに、担任の

「もう乗る順に並んで」

 という大声が響き、それにみんなが従った。俺はバッグか栞を取り出し、席の確認をすると、「乗る順パス単」とつぶやく。誰にも聞こえないと思ったら、隣の上野圭助がこちらを何度か振り返り、

「小暮くん、僕は面白いと思うよ」

 と言ってきたので、愛想笑いをした。


 新幹線内に入ると、いよいよ始まった、という雰囲気が溢れた。訳もなかった。いつも通り、隣に座る上野と雑談し、まあそれに花を咲かし、景色を見、担任にちょっかいを出した。

 一度東京駅で乗り換えることになり、電車を降りる。すれ違う人は、思っていたより無表情じゃなかったし、温かみも感じた。

 と、思っていたあの頃の自分に思いを馳せる。通行人にぶつかり、こちらは謝るが、あちらは謝らない。日本人、ではなく現代人、でもなく社会人の闇を感じた。

 ふと前の方を見る。いつもはへらへらとしている唯我が、顔を翳らせている。目の下には大きなクマがあった。

「碧生くん、何見てんの?」

 黒田小道が話しかけてくる。俺の意中の人、平たく言えば友達だ。

「東京駅をよく見ようと思って」

「あっち向いたりこっちを向いたり美人が好きなのね」

「大丈夫、無い物ねだりはまだしてない」

 そういうと彼女は、あたかも俳句を読むかのように、節をつけて俺のセリフを繰り返した。

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