第10話 うさぎの予感
2人並んで馴染みの商店街へ向かう。
俺が子供の頃から通い慣れた場所だ。初めてのおつかいもここで済ませた。
「あら、シンちゃん、いらっしゃい。今日は珍しく、
「こんにちは。唐揚げ弁当を……2つ。あ、こいつは
弁当屋のおばちゃんは、「へー、そっくりなのにねー」と雑談しながらも手際よく弁当を袋に詰めていく。
やはりウェルヴィを連れて歩くと目立つ。
道ゆく男たちの視線があからさまに下がるのは男性の俺から見てもよく分かった。
当の本人は一切気にならないようで、「ポテチ、ポテチ」と俺の耳元で連呼していた。
「ちゃっかり、わたしの分を買ってくれるところも好きだぞ」
「……うるさい。スーパーに寄って帰るぞ」
弁当を受け取り、少し離れたスーパーへと向かう。
ウェルヴィはお菓子売り場に直行すると、何味のポテチを買うか吟味して全種類をカゴに放り込んだ。
「大は小を兼ねると言うそうじゃないか。素敵な言葉だ。わたしとポテチのために作られたとしか思えない」
緊急連絡用でスマホを与えたら、余計な知識ばかり身につけるようになってしまった。
元々、口は立つ方だが、最近は拍車がかかっている気がする。
「……盗まないだけましか」
「偉いだろ。褒めろ。褒美に発情してやるぞ」
ポテチしか入っていないビニール袋を持ってご満悦なウェルヴィが胸を張って得意顔を向けた。
そんなことをするから男性陣の視線が釘付けになっている。
そして、ウェルヴィの隣にいる俺に向かって舌打ちをしてくるのだ。
「はいはい。帰るぞ」
「むぅ。つまらん奴め。どうした?」
ふいに足を止めた俺よりも前に進んだウェルヴィが振り向く。
俺は彼女ではなく、反対側から歩いてくる人を見て声を上げた。
「凪姉!」
少し離れているが、俺の声が聞こえたのか手を挙げてくれた。
凪姉に駆け寄ろうと足を踏み出したとき、ウェルヴィが俺の手を掴んだ。
「……なんだ」
「わたしを置いて行く気か?」
「いつもみたいについてくればいいだろ」
むくれたウェルヴィが無言で俺の腕に自分の腕を絡ませる。
こんな反応を見せるのは初めてで、俺も調子を狂わされてしまった。
「デート中に他の女に声をかけるのは感心しないな」
「久しぶり、凪姉。違うんだ。こいつは、その、友達で」
「友達にしては親密に見えるけど」
明らかに敵意を向けるウェルヴィを肘で小突く。
髪色や髪型が違うだけで、同じ顔の二人はまるで双子のようだった。
凪姉はウェルヴィの顔をまじまじと見つめてから俺に向き直った。
「それならいいか。来週の日曜日は暇か?」
「予定を確認しておくよ」
「メッセージを送ってくれ。行き先は渋谷だ。じゃあな」
去って行く凪姉を見送っていると、腕を離したウェルヴィが軽くチャップしてきた。
「お前に尻尾があったら、ぶんぶん振り回しているのだろうな」
「……はぁ?」
「予定などないくせに格好つけて即答しないのはどうかと思うぞ」
「うるさい」
不機嫌なウェルヴィを追いかける。
「
「そんなことを言うな。それに凪姉は俺にとって姉同然で、お前が思っているような感情はない」
「それはどうかな」
突然黙ったウェルヴィは鼻をヒクヒクさせながら、辺りを見回していた。
「どうした?」
「渋谷と言ったな。気をつけた方がいいぞ。嫌な予感がする」
渋谷には『赤翼のダンジョン』という中級者向けのダンジョンがあるのは確かだ。
都心で冒険者ギルドが乱立している場所でもあるが、普通に買い物する分には問題ないだろう。
「あの臆病者が所属しているギルドは渋谷だったな。奴らは何をしでかすか分からんぞ」
「まさか。俺たちは渋谷のダンジョンにはいない。仕返しするなら、向こうからこっちに来るだろ」
「窮鼠猫を噛む、ということわざがあるのだろう? 追い詰められた人間は何をするか分からんぞ」
人間でもない奴が人間を語るとは世も末だな。
でも、ウェルヴィの言う通りだ。他でもない凪姉と一緒だから用心しておこう。
帰宅後、ウェルヴィは唐揚げ弁当とポテチ2袋を平らげ、満足そうにソファに寝転んだ。
毎日のようにジャンクフードを食べて、スレンダー体型を維持できるのは羨ましいを超えて不気味だ。
風呂に入ってから寝るように催促しつつ、凪姉にメッセージを送っておいた。
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