衣擦れに似た音

りょ

衣擦れに似た音

店頭に吊るされている虫籠で将来暮らす大きな蜻蛉


手あそびの手が空ぶって空ぶった手が手あそびに戻りはじめる


二三転して蜜蜂が花にのる電気のような音を鳴らして


その蝶が絶滅して数年あとに確かに絶滅したと伝える


虫の腹みたいな橋の裏側を見ながら飲むグリーン・スムージー


はずれにはわざわざはずれと書かれない 咲き揃う外来のたんぽぽ


頃合を見て手放す風船 切り札はよく使うからよく反っていた


諦めたものから思い出になって少しずつほどかれる蜂球


緑の夜 王の名前を賜った薔薇へ鋏を近づけてゆく


田圃には半透明な蝦がいて輪郭を日すがらごまかした


忘れてしまった楽しいことがあったことだけは分かって蚊柱光る


いつも螇蚸は鋭い草の上にいて指に晩夏の傷をつくった


故郷に戻って穏やかに暮らす 語り部が気配を消すように


通園バスが出て行ったあとかまきりが最後に辿りつく水たまり


被写体の対義語がカメラマンなら淋しい 雨にふやける茸


蓑虫の寝息が蓑を出て行って中国山地で引っかかりおり


故郷の潮風に砂が混じって飼っていた犬にだんだんなった


先生にいつか教えた花ことばあの花ことばには続きがある


捕まえた蜻蛉がわたしの手のなかを衣擦れに似た音で満たした


追いだきのお湯はしずかに揺らいでいてそれは決して決壊しない

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衣擦れに似た音 りょ @yakou_haiku

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