我らの通勤路

古田地老

葛木氏の通勤路

朝、まだ太陽がビルの裏側に潜めている時間――。


社員宿舎の部屋の扉を中から開け、外に出る。扉を閉め、鍵を掛ける。


廊下を真っ直ぐ突き当たりまで歩いて、階段室に入り、階段を降りる。宿舎の一階ロビーから出て、車のまばらな駐車場を斜めに通り、構内から外に出る。


宿舎が建っているのは高台だ。この周辺は丘と谷が連続した地形で、電車通勤のために、駅のある谷底まで坂をひたすら下る。


構外に出ると、小学校の前を通ることになる。上下に凸凹した小学生の列が、狭い歩道をこちらへ歩いてくる。電柱の横ですれ違う。暫くは下り坂が続くため、ひたすら靴底でブレーキを掛けながら進む。


高台の中腹には県立図書館がある。その玄関前の階段を降りることで、エンジンブレーキを掛け続けて熱くなった脚が幾分癒やされる。


図書館の階段を降りたら、また下り坂だ。急な坂はこれが最後で、下った先で緩やかな下り坂に接続する。この最後の急な下り坂は途中まで下りると、両端は坂のままだが、真ん中にだけ、踏み面の広く蹴上げの薄い階段が現れる。当然、階段を使う。


緩やかな坂に着いた。この坂は幹線道路に面しているため、やや薄い明るい時間帯でも、車も人も多い。そのまま駅前の交差点まで歩く。


30歩手前で赤信号になり、歩速を落としながら横断歩道の手前に辿り着く。あとはこの交差点を渡るだけだ。


幾人かが交差点に侵入し、歩行者信号が青になる。横断歩道を渡り終え、今、駅から出て来た人波と入れ違いに駅に入る。


葛木かつらぎ氏は、その後東京行きの電車に乗り、職場に向かった。その間、特筆すべきことは無い。

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我らの通勤路 古田地老 @momou

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