初陣

ダンジョンに来た俺はドローンの配信ボタンを押した。するとすぐに同接人数が5万人を超えた。す、すげぇ…


「えー、久しぶりだな。今日は初級ダンジョンで配信しようと思ってる」


俺はドローンのカメラに向かってそう言う。


『慎也!久しぶりだな!』

『オーバーフローの制圧お疲れだな』

『初級?』

『なんで今更初級なんて潜ってるんだよw』

『まさかお前…サディストになったのか…?』


コメントでは好き放題言われている。


「お、落ち着けお前ら。まぁ初級ダンジョンに潜ってるのには理由があるんだよ」


そう言って画面外でソワソワしている葉由奈に目線を送る。すると葉由奈はコクリと頷きゆっくりと近づいてきた。そして葉由奈の姿が画面に移る。


『ん?誰だ?』

『か、可愛い…』

『ま、まさか…慎也の彼女か?!』

『お、お前…俺たちは仲間じゃなかったのか…?』

『あれ?でもどこかで見たような気が…』


「ほら葉由奈、自己紹介」


俺は小さく葉由奈にそう言った。すると葉由奈は上擦った声で声を発した。


「た、高雛 葉由奈です!き、今日からよろしくお願いします!」


そして勢いよく頭を下げた。


『葉由奈?どこかで聞いたことがあるような…』

『あれ?葉由奈って…』

『もしかして慎也の妹?』


俺はカメラを見ながら話し始めた。


「あー、分かってる人もいるかもしれないが、葉由奈は俺の妹だ。それで最近色々あって葉由奈も魔法を使えるようになったんだ」


『色々ってなんだよ笑』

『おお!葉由奈ちゃんも魔法を使えるようになったのか!』

『どんな魔法?』


「色々は色々なんだよ。葉由奈の魔法は身体の欠損した場所でさえも治してしまう治癒魔法だ。それが例え心臓でもな」


俺がそう言うとコメントがピタリと止んだ。そして再び動き出す。ものすごい勢いで。


『は?』

『え?やばすぎん?』

『マジで?』

『それって死んだ人間も生き返らせることが出来るってこと?』

『ヤバすぎww』

『まぁ、兄貴がこんなだからなぁ…』


「な、ヤバイよな」


俺もコメントと同じ感想を言う。


『いやお前も大概やばいよ?』

『お前が言うなよww』

『何自分は普通みたいに言ってんだよw』


「な、なんだよお前ら…」


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今回初級ダンジョンを選んだのはもちろん葉由奈がいるからだ。葉由奈は戦闘経験が全くない。だからいきなり難易度の高いダンジョンに潜らせる訳にはいかない。


俺はこのダンジョンに少しの希望を持っている。それは葉由奈が魔物に怯えてくれるという希望だ。そうすればもうダンジョンに潜りたいなんて言わないだろう。


そう思いながら歩くこと数分、目の前に魔物が見えてきた。数は一体。葉由奈はどんな反応をしている?


「あ、あれが魔物…」


その表情は固く、少し怯えているようにも見える。


「葉由奈。怖いなら無理しなくていいんだぞ?ダンジョンでお金を稼ぐのはお兄ちゃんに任せておいても…」

「大丈夫。私は出来るから」


その目は決意に満ち溢れていた。


『お前ら…』

『この兄妹マジで推せる』

『幸せになるんやで…』


目の前の魔物は生物ではなかった。と言うのもどう見ても生きていられるはずのない白骨が人間のような容姿を形取り動いていた。


「あんなほねほねパニックになんか負けないから…」


『ほねほねパニックww』

『おっと?何かの片鱗が見えてるぞ?ww』

『葉由奈ちゃんは違うと言ってくれ…』


「…気をつけろよ」


そう言うと俺の後ろにいた葉由奈が前に出てきた。そして俺はそんな葉由奈を見つめる。葉由奈に何かあればその時はすぐに駆けつけられるように。


「…」


葉由奈は緊張した面持ちで腰を低くした。ちなみに葉由奈は今杖を持っている。この杖は俺がオーダーで頼んだ者だ。材料は封鎖されたダンジョンのボスであるあのドラゴンの牙を使った。流石はボスの材料。あの杖を使うと葉由奈の魔法の効果が大幅に向上する。魔法を使うだけで何も無い地面から植物が生えてくる程に。


ん?ちょっと待てよ?葉由奈って攻撃魔法あるのか?


「は、葉由奈?お前攻撃出来る魔法あるのか?」

「え?何それ?今ちょっと集中してるから待って…」


『あれ?雲行きが怪しいぞ?』

『は、葉由奈ちゃん?』

『ま、まさか攻撃魔法がないのに魔物に突っ込んだり…し、しないよね?』


「おい葉由奈ちょっと待…」

「はぁっ!」


俺が言葉を発する前に葉由奈は勢いよく駆け出した。葉由奈の足音に気づいたのか白骨はこちらに振り向きカラカラと体を鳴らしながら迎え撃つ準備をする。


白骨が手に持っている棍棒を勢いよく振り上げる。だが白骨が棍棒を振り下ろすより先に葉由奈が杖を横に薙ぎ払った。


っ!かなり動けてはいるが葉由奈の力はそんなに強くな…


杖が白骨の胴体に命中する。それと同時に白骨の胴体だけが壁に向かって吹き飛ぶ。そして残った頭と脚部分が地面に音を立てながら落ちる。要領はだるま落としだ。つまり葉由奈の力が強すぎて胴体だけを吹き飛ばす形になった。


「oh......」


俺は呆然としてしまった。


『は?』

『え、ちょ…』

『え?今の魔法使ってないの?』

『や、やべぇ…』

『慎也の妹だ』


「お、お兄ちゃん!やったよ!」


当の本人は嬉しそうにそう言いながらこちらに戻ってきた。


「あ、あぁ…そうだな」


俺は苦笑いしながら葉由奈にそう言った。正直、葉由奈にはダンジョンは荷が重いと思っていた。だがいくら初級ダンジョンだからと言っても、あのパワーで魔物を倒してしまうのは予想外だった。これなら中級…いや、上級ダンジョンですら通用するかもしれない。


『お兄ちゃん苦笑いww』

『素晴らしい力だ…』


「魔物は怖くなかったか?」

「最初はちょっと怖かったけど大丈夫だよ!」

「そうか。でも俺との約束は破るなよ?」

「…ワカッテルヨ」


そう言いながら葉由奈が俺から目線を外した。


「…お兄ちゃんの目を見ながら言いなさい」

「……」


葉由奈は黙って目線を合わせようとしない。


「…約束が守れないなら家に居てもらうしかないぞ?」

「う…分かったよ」


葉由奈は少ししょんぼりしながらそう言った。


『約束ってなんだ?』

『ちゃんとお兄ちゃんしてるんだな』


この日は葉由奈をダンジョンな慣れさすためにもう少しだけ潜って魔物を倒させた。もちろん複数いる場合は俺が一体だけ残して後は倒した。結果は全て一撃で倒してしまった。我が妹ながら恐ろしい…



【あとがき】


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