報酬

「中宮さん。メタホールを完全に消し去ることが出来るかも知れません」


俺がそう言うと中宮さんが不思議そうな顔をした。


「メタホールを完全に消し去る?そ、そんなことできるんですか?」


中宮さんは半信半疑、というかほとんど信じていないであろうと分かる顔でそう言ってきた。まぁ俺だって確信しているわけじゃない。可能性の話だ。


「もしかしたら、の話ですが…」

「どうするんですか?」

「メタホールって魔力で溢れてるじゃないですか」

「そうですね」

「だとしたら俺の魔法で吸収できるんじゃないかと思って…」


俺がそう言うと中宮さんは目を見開いた。


「っ!そ、そんなことが?!」

「あくまでかもしれないという程度ですが…」

「そ、それでも試してみる価値は存分にあります!もしそんなことが可能なら一気にメタホールによる被害や危険すぎるダンジョンの封鎖が簡単になる」


中宮さんはテンション高めにキラキラとした目を向けてきている。そ、そんなに期待されるとダメだった時に気まずいな…なんてことを考えていると葉由奈が近寄ってきた。


「お兄ちゃん?なんの話してるの?」

「ん?あぁ、メタホールをもしかしたら消せるかもって話をしてたんだ」

「えぇ!?そんなことできるの?!」


葉由奈は大袈裟な程に驚いていた。俺はそんな葉由奈のリアクションをみてクスリと笑ってしまった。


「もしかしたら、な」

「善は急げ、です!とりあえず高雛さんの家に行きましょう!」


そう言って張り切っている中宮さんに連れられて俺たちは家に向かった。原型を留めていない家に。


「…」


家に着いた俺たちは立ち尽くしていた。主に中宮さんだが。


「本当に壊れたんだな…」


俺はまだ実感が湧かなかった。ずっと小さい頃から住んでいた家が瓦礫の山になっているなんて。


「…住む所なくなっちゃった」


隣では葉由奈が眉を八の字にして俯いていた。


「大丈夫だ。お兄ちゃんには5億円があるんだからすぐ家を建て直してやる」

「でも思い出の詰まった家だったのに…」


この家は亡くなった母さんと父さんとの思い出の詰まった家だった。それがなくなってしまった。だが家がなくなったからといってここで過ごした思い出が消えるわけじゃない。大事なのはこれからだ。


「落ち込むな葉由奈。母さんと父さんとの思い出がなくなったわけじゃない。それにまた家を建てて俺と葉由奈で新しい思い出を沢山作っていこう。な?」


俺はそう言いながら葉由奈の頭に手を置いた。


「…うん。そうだね」


葉由奈はそう言って優しく笑った。


「…」


中宮さんはというと優しい目で俺たちを見ていた。


「お、おほん。そ、それじゃあ庭の方へ行きましょう」


見られていたと気づいた俺は恥ずかしくなって咳払いをしながら庭の方へ歩いていった。そこには俺たちの家を壊し葉由奈を1度殺した…全ての元凶となったメタホールがあった。


「…」


何度見ても不思議な穴だ。ある日突然世界中で姿を表したこのメタホール。科学的にも全く分からないことだらけらしい。


「高雛さん」


俺は中宮さんに声をかけられ頷く。


メタホールに向かい直すと手を前に突き出しこう唱える。


「『暗黒のダークネス・コクーン』」


そう唱えると目の前に真っ黒な球体が浮かび上がる。そしてそれはみるみるとメタホールを包み込んでしまった。


「ど、どうしですか?」


中宮さんがそう聞いてくる。その隣では葉由奈が心配そうな顔をしている。


特に今は何も…


「っ!ぐっ…」


そう思っていたが急速にありえない量の魔力が身体に流れ込んでくる。


「高雛さん?!」

「お兄ちゃん!?」


2人が心配そうな声を上げるがそれに反応している余裕がない。


既に大量の魔力を吸収しているはずだ。だがまだ流れ込んでくる魔力が尽きる気配はない。それどころか取り込めば取り込むほど濃い魔力が溢れ出してくる。俺の魔力量は多いらしいがその量を軽く凌駕するほどの量の魔力だ。


「ぐ、ぁ…はぁ、はぁ…」


俺は急いで『暗黒の繭ダークネス・コクーン』を解いた。


「お兄ちゃん大丈夫?!」


魔法を解いた俺に葉由奈が急いで駆け寄ってくる。


「な、なんとかな…」


俺は額に浮かんだ汗を拭いながらそう言った。きっとあれ以上魔力を吸収し続けていれば俺の身体は壊れていただろう。今も目眩や頭痛が止まらない。


「ど、どうでしたか?高雛さん」


中宮さんにそう声をかけられてメタホールがあった場所に目を向けてみる。そこには先程と変わらない姿のメタホールがあった。


「厳しいですね…かなり魔力を吸収したとは思うんですが、まだまだメタホールには魔力が残っていると思います」

「そうですか…まぁ仕方ないですね」


中宮さんは一瞬残念そうな顔をした後、すぐに切り替えた。さすがだな。


「あぁ、高雛さん」

「はい?なんですか?」


名前を呼ばれた俺は返事をする。なんだ?


「今回のオーバーフローでの報酬を言ってなかったなと思いまして」

「報酬?あの…オーバーフローは俺が勝手に制圧に向かっただけなので報酬とかは…」


そう。オーバーフローは俺が私情で制圧しただけだ。そこに感謝される言われはない。


だが中宮さんは続ける。


「オーバーフローの制圧2回。その報酬としてこの壊れた家を我々の方で直させて頂きます」

「……はい?」


この人は何を言っているんだ?家を直す?この完全に壊れきった家を?一体いくらかかると思ってるんだ?元あった家はかなり大きかった。それを元通りにすると言っているんなら億なんて下らないぞ?


「や、やったねお兄ちゃん!!お父さんとお母さんとの思い出の家を直してくれるって!」


葉由奈が喜んでいて嬉しいが…


「い、いいんですか?家を直すともなればかなりのお金が…」

「高雛さん。今回、高雛さんが2回のオーバーフローを制圧していなければたくさんの人が死んでいました。その功績を考えればこの報酬はむしろ安いのです。だから遠慮せず受け取ってください」

「…はい。ありがとうございます」


俺は報酬なんかより中宮さんの言葉の方が嬉しかった。


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ある空港に一基の飛行機が降り立った。完全に停止した飛行機は扉を開ける。そしてその扉から姿を現したのはプラチナブロントの美しい髪を腰付近まで伸ばした明らかに日本人ではない顔立ちをした美女だった。


「ここが日本ね」



【あとがき】


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