私も
「高雛さん?どうしたんですか?」
葉由奈の魔法が分かったところで俺たちは帰ろうとしていた。そんな時後ろから中宮さんに声をかけられた。
「あ、中宮さん。さっきはすみませんでした」
「さっき…あぁ、電話のことですか。それはいいんですけが…何かあったんですか?」
「えっと…それが…」
あまりこのことは葉由奈に聞かせたくない。きっとさっきの先生との話で大体のことが分かっているかもしれないが、それでも…自分が1度死んでしまったかもしれないなんて言われたくないだろう。
だから俺は中宮さんに近づいて耳元で囁いた。
「実は…葉由奈が1度死んでしまったかもしれなかったんですが生き返って…えっと何言ってるか分からないと思うんですけど…それで先生に調べて貰ってたんです」
「は、はぁ…」
中宮さんは全く意味が分からないといった顔をしていた。まぁそりゃそうだよな…俺だって自分で言っていて意味が分からない。
「お兄ちゃん?何してるの?」
「な、なんでもないぞ?」
葉由奈に勘づかれないように適当に誤魔化す。
「…もしかして」
バレたか?
「私に内緒で危険なダンジョンに行こうとしてるんじゃないよね?」
「え?」
葉由奈が言ったのは全く見当違いのことだった。よ、良かった。なんとか誤魔化せたようだ。
「ば、バレちゃったか…はは…」
ここは余計なことを言って変に勘ぐられる前に勘違いをそのままにしておいた方がいいだろう。
「…」
隣の中宮さんを見ると小さく頷いてくれたので話を合わせてくれると言うことだろう。
「ダメだよ!もうお兄ちゃんは十分お金持ってるでしょ!」
…このやり取りでさえも懐かしく感じてしまって涙が出そうになる。
「…って言ってもお兄ちゃんの楽しみがダンジョンに潜ることなんだよね」
葉由奈が少し元気なくそう言った。確かに俺の楽しみはダンジョンに潜ることだ。だが今回のように俺が居ない間に葉由奈に何かあったら俺はもう…だから俺はもう必要以上にダンジョンに潜らな…
「だったら私もダンジョンについて行きます!」
「は?」
葉由奈の口から出たのは予想外の言葉だった。俺はその言葉に呆気に取られてしまった。そして湧いて出てくるのは焦り。葉由奈にそんな危険な場所に向かわせる訳にはいかない。
「私の魔法ならお兄ちゃんが怪我した時とか…」
「だ、ダメだ!それだけは絶対にダメだ!」
「お、お兄ちゃん?」
俺があまりに必死だったためだろうか?葉由奈が困惑気味でそう呼んでくる。
「ぁ…わ、悪い…いきなり大きい声出して」
「だ、大丈夫だけど…どうしてそんなに取り乱したの?」
葉由奈がそう聞いてくる。なるほど、葉由奈が俺を引き止めた時の気持ちはこんな気持ちだったのか。そりゃ止めたくもなるか…
「葉由奈。俺がダンジョンに行きたいって言った時、引き止めたよな?どんな気持ちだった?」
「え?そ、そりゃお兄ちゃんに危ない目に合って欲しくないから行かないで欲しかったけど…あ…」
葉由奈は話している途中でハッとした顔になった。
「分かったか?俺は葉由奈に危険な目に合って欲しくないんだ。だから、な?葉由奈はダンジョンになんて潜らないでくれ。お金なら俺が稼いでくる。だから葉由奈。頼むよ」
俺は葉由奈の手を両手で包み込みながらそう言った。
「…」
そんな俺を見て葉由奈は黙ってしまった。
「…やだ」
「え?」
「お兄ちゃんだけが危険な目に合って私だけが安全な場所にいるなんて絶対にやだ!」
「は、葉由奈…」
葉由奈は目尻に涙を浮かべながらそう言った。
「葉由奈、気持ちは嬉しいが…」
「お兄ちゃんが何を言ったって私は絶対について行くからね」
葉由奈の目は決意に満ち溢れていた。きっとこれは何を言っても無駄なんだろう。だったら…
「…分かった」
「え?ほんと?」
「あぁ」
無理に断ったりして葉由奈が1人でダンジョンに潜ったりしたら大変だ。そんなことになるなら俺と葉由奈の2人で潜った方が安全だ。そうしたら守ってあげられる。
「だが絶対に前に出るな。俺の後ろに居てくれ」
前に出て怪我なんてしたら大変だ。
「それが守れないなら連れていかない。いいな?」
「うん!それでいいよ!やった!」
なんでこんなに喜んでるんだ?ダンジョンの中は危ないのに…
「これでやっとお兄ちゃんの役に立てる…」
「え?何か言ったか?」
「ううん、なんでもないよ」
そう言った葉由奈はやっぱり喜んでいるように見えた。
【あとがき】
面白い、もっと読みたいと感じた人は評価お願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます