いつも探索しているダンジョンが数年前に危険すぎて封鎖されているところだと知らずに配信したら大バズりして世界有数の探索者になった

Haru

配信者になる決意をする

この世界にはダンジョンと言うものが存在する。ダンジョンとは魔物が存在する迷宮のような場所である。ダンジョンに挑むにはどこかにあるブラックホールのような穴、人はそれをメタホールと呼んでいる。少しでも触れれば強制的に転移される。それは極めて危険であり、命の保証は無い。にも関わらず探索者シーカーと呼ばれる者たちは何度も何度もダンジョンに挑む。当然その中で命を落とす者もいる。それなのにどうしてダンジョンに潜るのか。


それは様々だ。だが一番大きくな理由は、ダンジョンに初めて潜った時に得られる恩恵のおかげだろう。


ダンジョンの中には魔力という目には見えないものが充満している。それが体に急速に吸収されることでとてつもなく大きな力を手にすることができる。その最たるものが魔法だ。日常ではありえない非日常に当てられてみんなダンジョンに潜るのだ。


他にも理由はある。魔物がドロップしたアイテムを換金してお金を稼いだり、ただただ魔物と戦いたいがために危険を冒してダンジョンに挑む狂戦士バーサーカーもいる。とどのつまりダンジョンとは需要があるのだ。それはもう世界経済において無視できない程に。そして今まで無かったジャンルが最近頭角を現してきた。それがダンジョン配信と言うものだ。ダンジョン配信とはその名の通り、ダンジョンを攻略していく様を配信して世界中の人々に見てもらうというものだ。まぁこれは自尊心を満たすためにする人が多いのだろう。


俺もやってみようかななんて思ってる。え?お前戦えるのかって?安心して欲しい。俺は17歳の高校二年生だが、自宅にある簡単なダンジョンにしか潜っていない。だから魔物も弱いしそんなに心配することがないのだ。


さて、そろそろ説明も終えた頃だ。ここから始まる物語を楽しんで貰おう。


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「よっ、朝から眠そうな顔してんな」


そんなことを言いながら肩をかなりの強さで叩いてきたのは友人の正川まさかわ 大智だいちだ。


「実際眠たいしな…」

「せっかくの学校なんだ。楽しまないと損だろ?」


多分そんな考えできるのはお前くらいだよ。俺はそんなことを内心思ったが口には出さなかった。


「で、慎也しんや茉莉也まりやちゃんの配信見たか?」


大智が目をキラキラさせながら楽しそうにそう言う。


「茉莉也?誰だそれ」


だが俺には全く心当たりのない名前だった。


「はぁ?!お前まじかよ!茉莉也ちゃん知らないのかよ!」


大智が信じられないものでも見るような目で俺を見てくる。なんだ?そんなに有名な人なのか?


「茉莉也ちゃんって言ったらダンジョン配信でめちゃくちゃ有名なんだぞ?」

「ダンジョン配信ねぇ…」


ダンジョン配信は最近急に有名になった。なんでもダンジョンを攻略する様子をLiveで映すようだ。


「なんだ?お前は嫌いなのか?」

「いや?そんなこと無いが…」


正直面白いと思う。ダンジョンの中がどうなってるのか知りたいがダンジョンの中には入りたく無いという人もいるかもしれない。そんな人たちにとってはとてつもなく貴重な映像なのだろう。


「やっぱり自分で潜ってこそだろ」


俺は大智にそう言った。


「あー、確かお前ダンジョンに潜ってるって言ってたな。でも探索者シーカーライセンスは持ってないんだろ?」

「あぁ。まぁ俺のはなんだ。趣味みたいなもんだよ」

「趣味って…お前変わってんな」


大智が呆れを含んだような目を俺に向けてくる。そんな目を向けるな。仕方ないだろ?体を動かすにはちょうどいいんだから。


それと今会話に出てきた探索者シーカーライセンスとは魔物を倒した時に落ちるアイテムを換金する時にいる資格みたいなものだ。探索者シーカーライセンスがなければ換金出来ない。だから俺はどんなに魔物を倒してもお金が貰えない。だが魔物が落としたアイテムをそのまま捨てるのは勿体ないので家に持ち帰って全て保管している。


「ならしてみればいいじゃん」

「は?何を」

「配信だよ」


大智はあっけらかんとした様子でそう言った。


「誰が」

「お前しかいないだろ」


ふーむ。確かに勿体ない気もする。どうせ魔物を倒すんなら配信してしまえばその分お金も入ってくる…言っておくが俺は裕福な方じゃない。どちらかと言えば生活は厳しい。今も生活保護を受けながら生活している。


「確かにする価値はあるかもな」

「だろ?物は試しだ。いっぺんやってみてダメならやめたらいいさ」


確かに大智の言う通りだ。たまにはいいこというな。


「…今不本意な褒め方をされたような気がするんだが?」

「気のせいじゃないか?」


こちらにジト目を向けている大智と目を合わせずにそう言う。


それから学校を終えた俺は家に帰ってきた。


「ただいま」


玄関を開けながらそう言う。するとその声に反応したのかリビングの方からトタトタと足音が聞こえてきた。


「おかえり!お兄ちゃん!」


言いながら一つ下の妹、高雛たかひな 葉由奈はゆなが鳩尾に頭突きしながら抱きついてくる。


「うぐぉっ…た、ただいま…」


この家には俺と葉由奈の2人しか住んでいない。まぁ家族と言っても血は繋がっていない。俺は母さんの子、葉由奈は父さんの子。つまり俺の母さんと葉由奈の父さんが結婚したことによって兄妹になった義理の妹だ。だが俺は葉由奈のことを本当の家族以上に愛している。もちろん家族としてだ。


父さんと母さんは亡くなってしまった。ある日、突然ダンジョンに繋がるはずのメタホールから魔物が溢れ出てきた。オーバーフロー。それは今まで一度も無かったことだった。そうたった一度も。世界中にダンジョンがあるのに日本が初めてだった。だから誰も瞬時に行動することが出来なかった。その結果、おびただしい量の死傷者を出した。その中に含まれていたのが母さんと父さんだ。


だから大智に言った趣味と言うのは半分本当で半分嘘だ。母さんと父さんを殺した魔物に言いようもない鬱憤をぶつけているのだ。こんなことしたって意味が無いことは分かっている。でもこれで少しでも2人が報われるのなら…


「お兄ちゃん!今日の茉莉也ちゃんの動画一緒に見ようね!」


確かダンジョン配信者の…ちょうどいい。どんなことをしているのか見ておくか。


「あぁ、分かった」

「ほんと?!やったぁ!」


葉由奈は屈託のない笑顔でそう言った。なんとも愛らしい笑顔だ。


そして時間は過ぎ夕方7時。晩御飯を食べ終えた俺と葉由奈はソファに座りスマホに目を向けていた。隣に座っている葉由奈は待ちきれないと言ったようにうずうずしていた。その時、真っ暗だった画面に一人の少女が写った。


「どうもこんにちはー!茉莉也だよー!」


自らを茉莉也と名乗る少女が挨拶をするとものすごい量のコメントが流れる。


『待ってた!』

『茉莉也ちゃん今日も可愛いネ』

『楽しみ!』

『今日はどこに潜ってるんですか?』


各々がコメントをする。そしてそれに茉莉也という少女が答える。この子俺と同い年くらいか?


「今日はね、中級ダンジョンに来てるよ」


『いつも通りだね』

『中級ダンジョンでもかなり魔物が強いからなー』

『ほんとそれ。気抜いてたらすぐに死ねる』

『腕に自信がない初心者は絶対に初級ダンジョンから始めた方がいい』


ダンジョンには階級がある。下から順に、初級、中級、上級、そしてそのまた上に絶級がある。一般的に中級ダンジョンを攻略できる人間はかなりの強さを誇っている、と言われている。その上の上級は行ける人間が限られる程に危険なダンジョンだそうだ。そしてそれを遥かに上回るのが絶級ダンジョン。一度入ると生きては帰れないとまで言われている。これまでも腕に自身のある探索者シーカーが何百人と入ったがほとんどが出てこなかった。だが当然、生きて出てくる人も居た。その人たちは六柱と呼ばれている。そう、生きて出てきたのはたったの6人だけ。それだけで挑むべきでは無いところだというのが伺える。


茉莉也という配信者は中級ダンジョンに居るらしい。つまりかなり強い。


「それじゃあやって行くね」


茉莉也はそう言ってダンジョンの奥に進み出した。その一声にコメントの速度が上がる。


『気をつけてね!』

『中級ダンジョンくらい余裕だろ』

『と、初級ダンジョンで泣いて出てきた探索者が言っております』

『草』

『茉莉也ちゃん頑張って!』


コメントでも色んなのがあるんだな。純粋に応援してくれる人もいたら自分の方が配信者より上だと言ってマウントをとってくる変なやつも居る。


茉莉也が数分歩くと目の前には大きな狼が現れた。なんだコイツ。見たことない魔物だな…


「あ、シルバーウルフだ…」


茉莉也の表情からかなり強めの敵だと言うことが伺える。


『うわー、シルバーウルフか』

『コイツかなり強いよね』

『でも茉莉也ちゃんなら倒せるよね?』

『うん。多分茉莉也ちゃんなら大丈夫だと思う』


「大きい狼だね!」


葉由奈はそんな呑気なことを言っていたが…


コメントの言う通り、茉莉也は襲いかかってきたシルバーウルフの噛みつきを危なげなく体を逸らすことで避け、てに持っていた短剣でシルバーウルフの胴体を切りつけた。短剣が胴体に痛々しく食込み赤黒い血が辺りに撒き散らされる。


「グゥルル…」


シルバーウルフは身体に出来た決して浅くない切り傷の痛みに耐えながら茉莉也と対峙した。


「すぅー…」


茉莉也はかなり集中している。それほどダンジョンは気の抜けないところだと言うことだ。


『すげぇぇぇ!』

『茉莉也ちゃんってやっぱりかなり強いよね?』

『上級ダンジョンも行けるんじゃね?』

『流石にまだ上級は無理だろ』

『いや、分からんぞ』


素人の俺から見ても茉莉也の動きは洗練されていた。そして気づく。いつの間にか画面にのめり込む程に集中していた自分がいることに。


「はぁ!」


茉莉也は極限の集中力の果てに地面を蹴ってシルバーウルフに直線的に走り出す。


「グゥルア!!」


それに呼応するようにシルバーウルフも茉莉也に飛びかかる。


刹那の一瞬。それで勝敗がついた。お互いに走り出したかと思えば茉莉也が右手をバッと前に突き出した。そして叫ぶ。


「『竜の吐息ドラゴン・ブレス』!」


次の瞬間、茉莉也の右手から燃え盛る炎が放出された。


「『竜の吐息ドラゴン・ブレス』…まぁまぁいい名前だな…でも俺ならもっとかっこいい名前を付けられる。そう、例えば『地獄の業火ヘル・ファイア』とか」

「お兄ちゃん…」


なぜだか葉由奈に生暖かい目を向けられたが俺は再び画面に目を戻す。


放出された炎はシルバーウルフの視界を遮る。これでは茉莉也がどこにいるのか分からない。そしてその炎から茉莉也が姿を現す。途端、茉莉也を視認したシルバーウルフが驚いたように目を見開いたように見えた。


「『炎のファイアー・ソード』!」


そう言った茉莉也が持っている剣は、先程までのただの短剣ではなく炎が纏わつき真っ赤に燃える剣になっていた。恐らく短剣に炎魔法を付与したのだろう。うーん、かっこいいなぁ。


「はぁ!」


そして茉莉也は剣を振るう。その一太刀はシルバーウルフの首を宙に飛ばした。首を切られたシルバーウルフは炎でその傷口を塞がれており血は出ていない。数秒後には灰になってパラパラと崩れた。


灰が完全に消え去ったあと、シルバーウルフが落としたと思われるアイテムがあった。


『うおおぉぉぉぉ!!』

『かっけぇぇぇぇ!』

『いや、マジで茉莉也ちゃん上級ダンジョンいけるだろ』

『だよな。めちゃくちゃ強ぇじゃん!』

『ハァハァ…おじさんも茉莉也ちゃんに切られたい…』

『めちゃくちゃヤバいやつ居て草』


俺も…やってみたい。少し見ただけでこんなに心を奪われるんだ。こんなに楽しむことができるんだ。俺も人にこの気持ちを味わって貰いたい。実の所、まだ配信者になるかどうか決めかねていた。だが今覚悟が決まった。


そう考えると自然と口が開いていた。


「葉由奈」

「ん?どうかしたの?」


葉由奈は可愛らしく首を傾げながらそう聞いてきた。


「お兄ちゃんな、配信者になろうと思う」



【あとがき】


新連載です!基本的に主人公やべぇ!って感じで行きたいと思います!


面白い、もっと読みたいと感じた人は評価お願いします!

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