011
昼休み、寧音は教室の中央に1人でいた。受験生も多いため昼休みに自主勉強をする者もちらほら見えたが、寧音はそれとは違う感じであった。誰もが彼女の存在を無視している。
樹の話によれば、沙羅の事故の後、クラスメイトから寧音のせいだという声が上がったのだという。寧音が苦しめたことで自殺したという者や、寧音自身が突き飛ばし殺したという者もいたらしい。沙羅の体操着には油性ペンで『人殺し』と大きな文字で書かれた。それから数日経つとさすがに飽きて来たのか、今は目立ったいじめはない。しかし、受験生達の湧き上がるストレスの発散のために、地味な嫌がらせが続いている。
英子は寧音が痛々しくて見ていられなかった。寧音が沙羅にしてきた報いなのかもしれない。けれど今はもうその沙羅にさえ、あてつけることすらできない。
樹が寧音に呼び出そうと寧音のクラスメイトに声をかける。すると、そのクラスメイトの女子たちは怪訝な顔をして答えた。
「嫌よ。呪われる」
彼女たちは半ば本気で言っているようだった。
「呪われるって……」
樹は大げさに思い、呆れた表情をした。けれど、彼女たちはそうは思っていないようだ。
「ほんとだって。美堂さんが死んだのも、あいつの所為でしょ!」
「この間、あいつをいじめだ女子が階段から落ちて、足怪我したって!」
受験生特有の思い込みに見えた。沙羅が死んだのが寧音の所為である証拠はどこにもない。それに警察が事故だと言っているのだから、大半の人間はそれを信じているのだろう。しかし、ここは進学校だ。この時期は皆、神経質になっている。こんな風に被害妄想を持つ子も少なくない。実際、その階段から落ちた女子も不注意で踏み外し転んだだけで、大怪我にはいたっていなかった。
「呼んでもらうだけでいいんです」
樹はそう頼んだが、女生徒たちは取り合わなかった。他の生徒たちもこちらを睨んでいる。
「難しいみたいですね。放課後、彼女が出てくるのを待ちましょう」
樹はそう言って、教室へ帰っていった。
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