女王蜂の嘘

佳岡花音

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――の落ちていく光景を私は永遠に忘れることはないだろう…


 高倉英子たかくらえいこが教室の窓に目線を向けた瞬間、それは起こった。窓の外で髪の長い女子生徒が、地面へと静かに落下していく光景だ。それはほんの一瞬の事であるのに、まるでスローモーションでも見ているかのような感覚だった。

 ばんっという何か大きなが落ちたような音が響き渡った。それは巨大な水風船の塊を叩き落としたような、そんな音だった。そして、ほとんどの生徒が黙って音のする方向に目を向ける。数秒間、昼間の校舎内とは思えないほどの静けさになった。その静寂の先に、恐怖と興奮の入り混じった叫び声があちらこちらから聞こえた。


――人が落ちた。


 英子は窓から校舎の下を覗かなくても、それが理解が出来た。見てしまった者はきっと後悔するだろう。


 校舎から落ちた彼女は長い髪を乱して頭から大量に出血し、表情ははっきりと見えなかった。ただ、異様な形で曲がった首と右肩が痛々しく、それはもう人とは思えない産物となっている。



 女子生徒のもとに最初に駆け付けたのは、体育教師の宇都宮うつのみやだった。彼はしばらくの間、茫然と立ち尽くしいたが、すぐに我に返って校舎の窓から彼女を見ている生徒たちに向かって、「見るな!」と叫んでいた。生徒たちも見れば後悔するとわかっていながらも見ずにはいられなかった。クラスメイトの何人かはあまりの恐怖に泣き叫んだ。また、恐ろしさを感じながらも目線を外すことが出来ず、その遺体をじっと見つめる生徒もいた。

 衝撃音と宇都宮の叫ぶ声で、他の教師たちも慌てて校舎下に降りて来る。一部の教師は、他の生徒にこれ以上見せまいと、大きめの毛布を校舎から運んで来て、彼女の上に被せた。当然、教師の中にも腰を抜かして何も出来ず、泣き叫ぶ者もいた。


「あれ、美堂みどうさんじゃなかった?」


 クラスメイトの一人がそう呟いた。英子の胸がどきんと高鳴る。


「嘘でしょ?」


 恐怖に震えながら、他の生徒が答えた。


「美堂だった。間違えない、あれは美堂沙羅みどうさらだ!」


 一人の男子生徒が声を上げる。その言葉で教室内は更に混乱と混沌の渦に巻かれ、誰もが正常ではいられない状態になっていた。



 美堂沙羅は英子の、このクラスのクラスメイトだった。


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