強力すぎて追放されたビーストテイマーですが、まさかの最強ロリドラゴンと契約することになりました

アトラック・L

第1話 

「シューベルト、お前パーティー抜けろ」


 俺が属するパーティーの拠点に呼び出されたと思ったら、そう告げられた。

 ……なんで?

 疑問符が俺の頭の中で回り続ける。唐突に、なぜ追放されなくちゃいけないのか。

 というか、追放されると食い扶持がなくなって困るの。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんだってそんなことになるんだよ」

「先日の事件以来、民間人のビーストテイマーへの不信感が高まっている。君がそんな事をするような奴ではないが、S級のテイマーである以上、パーティーの信用を損ねかねんのだ」


 先日の事件、それは知っている。

 ある有名パーティーに所属するビーストテイマーが、テイム禁止とされている高ランク帯のモンスターをテイムした結果、街中で暴走させたという事件。死傷者も多数出た事件だ。

 ここで問題なのは、暴走したのが高ランク帯ののモンスターだという事。テイム可能モンスターはランクで区別できるのだ。


「確かに、俺のランクなら先日のようなモンスターだってテイムできる。だけど、暴走させるなんて失態はしない。信じてくれ」

「……これはパーティーの信用の問題なのだ。追放書もギルドに提出し、認可された。現時点をもって、君はパーティーメンバーでは無くなったのだ」


 唖然とする。まさかこうも簡単に裏切られるとは。

 ……理不尽ここに極まりといったところか。


「……わかった。二度とここの敷居はまたがない」


 失望。十年も共に戦ってきた戦友だと思っていたのは俺だけだったのか。

 俺は背中を見せる。コイツらとはここでお別れだ。あぁ、それは悲しい。悲しいが、これで全部終わってしまったのだ。




「どーすっかなぁ」


 街の外に出て、森の中へ。食い扶持がない以上、どうにかして食い物を探さなくてはならない。狩りでもするか、とぼんやり考える。幸い短剣は持ってるし。

 だけど狩りは苦手だ。ビーストテイマーはモンスターの心が読めるから。彼らの最期の思考まで理解できてしまうから。

 それに、この辺のモンスターはみんな顔見知りだから、殺したくない。


「木の実とかねーかな」


 上を見上げる。緑の間から、白いラインが降り注いでいた。全く、こんないい天気の日に追放だなんて、ジョーダンじゃない。


「って、んな事より飯だ飯」言葉に魔力を乗せ、「おーい、誰かいないか!」

『なんや、うっさいなぁ。今何時やおもとんねん』


 ビーストテイマーの能力で、適当なモンスターを呼ぶ。出てきたのは、ツァールと呼ばれる無害な鳥獣だ。ちなみに夜行性。訛りがあるのは、別の森からの移住だからだとか。


「悪りぃ悪りぃ。って、お前だけか」

『せやで。なんや森の連中、こぞって中央広場に行きおってな。なんでも珍しいモンスターがおるっちゅー話や』

「ふーん、珍しいモンスターね。ビーストテイマーの血が騒ぐな」

『テイムするんか? なら急いだほうがええで。ソイツ怪我しとるらしいからな。肉食の奴らが喰っちまうかもしれんで』

「そっか、サンキュー。あー、と。それからこの辺で木の実が美味い場所あったら教えて欲しいんだけど」

『んなもん教えるかいな。ワイの取り分減るやろが』

「それもそっか。悪りぃ、んじゃ行ってくる」

『おー、とっとと失せろや。ワイは寝るで』


 森の広場か。ここからそう遠くないな。確かに耳を澄ませれば、モンスターの喧騒が聞こえてくる。

 森は走り慣れている。五歳の頃からの遊び場だ。木々の間を縫って、そこに向かう。


『おい、お前行けよ』

『やだよ、こいつ龍種だろ? 喰われちまうって』

『瀕死だから大丈夫だろ』


 近づくにつれ、喧騒がハッキリとした音像に変わっていく。

 龍? まさか、ドラゴンの縄張りからはずいぶんと離れているはず。あり得ない。そう思いながらも、開けた場所に出る。

 果たしてそこに、その存在はいた。


 赤い鎧のような鱗。

 空を切り裂く翼。

 全てを見据えて畏怖させる瞳。

 それら全てを兼ね備えた、究極の生命体。

 テイム禁止級もいいところどころか、テイムの前例すら存在しない存在だ──。


「なっ──マジかよ。マジでドラゴンじゃねぇか」


 その究極の生命体が、背中から血を流して倒れている。おびただしい量の血液が地面に浸透し、赤い池を作りつつあった。

 俺は近くのモンスターに話しかける。ラピッドと呼ばれる、長い耳が特徴的な温厚な種族だ。


「なぁ、何があったんだ?」

『シューベルト。あのドラゴンがここに墜落した、以上の情報はないよ』

「そっか。ありがとう」


 さて、どうするか。ドラゴン相手に対話を試みたことはないが──。


「やぁ、聞こえている?」


 声に魔力を乗せる。テイム用の汎用術式だ。


『……だれ?』


 驚いた。何に驚いたって、そのドラゴンの声は幼い子のものだったから。

 モンスターの声は、俺の耳には年相応に聞こえる。天寿を全うする直前なら老人に、その逆なら子供に。

 つまり、このドラゴンは──、


「──子供、なのか」

『痛いの……背中、痛くて……』

「そうか、痛いか」


 治癒魔法を使えば、このドラゴンを助けられる。だけど、それにはドラゴンをテイムしなければならない。

 ……できるのか、俺に。前例のない契約テイムが。

 だけどやらないと。だってコイツはまだ子供なんだから。


「抵抗するなよ──」


 ドラゴンに触れ、意識を向ける。慎重に魔力を通していく。筋繊維の隙間から、内部の分子構造にあるごくわずかな隙間から魔力を流す。

 魔力の行き着く先は脳。行動を司る器官に、契約の印を書き込む。構造を知り尽くしている生物なら雑にやってもテイムできるけど、ドラゴンという未知の存在は全神経を集中させなければならない。


「……く、ふ……」


 あと少し、感覚を研ぎ澄まして魔力を通すんだ。


「──通った」


 契約の印が記述され、俺の脳に刻まれた魔法陣と共鳴する。


『なに、したんですか……?』

「心配ないさ。治療が終わったら解放してやる」


 続いて回復魔法。ドラゴンに触れたまま、魔力を傷口に浸透させていく。

 魔力は万能のエネルギーだ。使い手次第でいくらでも変質し、術者の助けになる。

 しかし俺はあくまでもテイムに特化した魔力の使い手だ。一度テイムした相手に干渉する魔法しか使えない。


「……これは呪詛じゅその類か。なら──祓って、それから止血……お粗末な呪詛だ。幼体だから影響が大きいだけか」


 呪詛もまた魔力を利用したものだ。それを俺の魔力で消去する。魔法ではなく、純粋な魔力で洗い流した。


「これでよし。どうだ、気分は」

『楽に、なりました……』


 返事は途切れがちだった。当然だろう。他者の魔力を受け入れるのはそれだけで体力を消耗する。それでも、


「ならよかった」


 あのまま放っておいたらコイツは死んでいた。


「よし、じゃあテイムを解除するぞ」

『待ってください、お願いします……』


 魔力を引き上げようとした時、ドラゴンがそう言った。懇願に近い声に聞こえた。


『このままで……お願い……』

「この状態を維持すれば、お前に自由はないんだぞ」

『いく当てが、ないんです……』

「……しかしなぁ」


 ドラゴンをテイムして連れ歩くなど、前代未聞だ。そんな事をしてみろ。いく先々で大騒ぎだ。


「この姿がいけないんですか? なら──」


 ドラゴンの体に、俺のものとは違う魔力を感じる。ドラゴンが自身の体内に魔力を回しているのだ。

 ややあって、ドラゴンの形質が変化し始める。鱗や筋肉、脂肪といった類のものが圧縮されだして、しかし硬くなるわけではなく逆に柔らかくなっていった。

 ──噂には聞いたことがある。種族によっては、自身の体を変態させる魔法を使えると。まさか、幼体のドラゴンがそんな魔法を使えるのか。

 驚いていると、ドラゴンの姿が人型に変化していく。


「……綺麗」


 その姿を見て、俺はそう呟いていた。

 真紅の髪は肩口まで伸びている。

 琥珀色の瞳は瞳孔が縦長で、鋭い印象。

 そして、尻尾とツノが見えていた。


「これなら、いいですか?」


 その肌は白く、なめらかだった。

 だから俺はきっと、その姿に見惚れてしまったのだ。その幼いドラゴンの少女に──。

 

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