第2話 地獄

 俺は、素早く体を反転させ、羽交締めしている男の腕をつかんで後ろに転がった。グインの必殺のパンチが羽交締めしていた男の腕に命中し、炎が上がった。


 グイン達が飛びかかってきたのを、俺は、落ち着いてギリギリまで引きつける。


 よし、今しかない。


 屋上の縁から後ろへと渾身のジャンプをした。俺が狙った通り、グイン達も反射的に俺に飛びかかった。まんまとかかった。

 そして、その勢いで全員が屋上から空中に飛び出した。


 俺は、落下する直前の空中で、思わず笑いながら言った。


「地獄に堕としてやる、なんてね」


 全員が逆さまに落下した。大きな貯水槽が下になかったら即死の高低差だ。

 突然のことで、グイン達が無様に空中を泳いでいた。魔法を使ってなんとかする余裕があるかどうか。


 ここからのダイブに慣れた俺は一人、空中で一回転し、貯水槽に飛び込んだ。いつも通り水面は静かに俺を受け入れて、伸ばした指先から静かに着水した。

 グイン達がドボン、ドボン、ドボン、と派手な水柱を3つ立てて、沈んでいく。

 俺は、すぐに貯水槽から這い上がり、苔むした貯水槽の縁に立った。


「ふー、ちょうどいい水浴びになったな。この速乾性ウェアとスニーカーは、やっぱり優秀な遺物だ。水を弾いて、通気性がいい。さて、3人をどうやって助けようか。思ったより深く沈んだな....」


 その時突然、旋風とともに上空から浮遊する魔石推進の空中バイクが降りてきた。その上には、ドラゴン皮のライダースーツを着でゴーグルをつけたパバリ師匠が。そして、その背中にはスピカもいる。


「おやおや、やりすぎじゃないか?スピカちゃんに聞いて、様子を見に来てみてよかったわい。しかし、母親譲りの水耐性の使いこなしは、天晴れじゃ!」


 スピカが俺を見つけて嬉しそうに大きくブンブン手を振った。


「コフィ!すっごくかっこよかったよ!綺麗な飛び込みだったね!遺物のビデオカメラで撮ったの!にしし♪」


 それから、パバリ師匠が微笑みつつ、貯水池に向けて手をかざした。そして、重力魔法で溺れている3人を水ごと掬い上げ、3人を包んだ巨大な水球を浮遊させた。


「そぉれ!ほい、ほい、ほい!」


 パバリ師匠が大きな水球からびしょびしょのグインと手下2人を取り出し、軽々と抱き抱えた。水球がバシャンと水飛沫をあげて貯水池に戻った。


 俺は、パバリ師匠に駆け寄った。


 パバリ師匠の腕の中で息を吹き返したグインが「...これは、創世のパバリ様、お助けくださり、ありがとうございます….」と言って気絶した。


「パバリ師匠!おかえりなさい!てっきりお戻りは来月かと!」


「1万キロ東の彼方、メキシコ村から創世のパバリ様が一足先に戻ったぞ!ガハハハ」

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