語り部佐竹のうそばなし
笠井 野里
一話・佐竹のまくら
――――
〈笠井、お前小説のネタがないんだろ。俺と通話しろ、ネタをくれてやる〉
メッセージを送って来たのはS氏、いや佐竹という、私と同い年のとにかくふざけたヤツだった。趣味は大方合うのだが、彼の悪癖にとんでもないお喋りというのがあって、私は
佐竹の
「底辺作家の笠井くん、ごきげんよう」
「やあ」
まともに相手をすると気が狂うので、適当にあしらう。佐竹は私が寝ていてもお構いなしにずっと喋るので、殆どの応答を必要としない。高校時代も彼の喋りは「一人漫才」と皮肉られるぐらいのものだった。もっとも、佐竹はこれを自慢にしていて、このエピソードだけでまた三十分もペラペラ喋るので困りものだが。
挨拶以降もなにやら喋っていたが、どうでもいいので爪を切りながら彼の話を聞いていると、ついに本題に入ったようだ。以下の文章は、基本一人漫才師が喋り、かっこ内で私が細かな心情を述べるというなにやら読みにくい方式となっている。私はこれ以上に適切な文体を思い付けなかった。
――――
「俺が今回お前に持ってきたのは怪談だ、怪談。これはもう、どんなヘタクソでも書けるだろう?(そんなことはない。怪談は読者の想像力を駆り立てる表現と、メリハリのあるストーリーが求められる)お前向きだよ、なあ。
どうも最近流行りみたいじゃねえか。ネット小説なんざ無駄に怪談が並んでいるね。どうも、面白いじゃないか。実話調で一つの心霊スポットについて語るやつとかは凄かったね。(愚作者、読んでいないのである)
昔のオカルト板を思い出すね、2chのやつ。(我々はどうも世代ではないので、まとめサイトでしか知らない)きさらぎ駅やら、巨頭ォやらなんやら。俺が好きだったのは
フリーホラーゲームだって流行ったなあ。青鬼や魔女の家、Ibだとか。フリーホラーノベルもあった。
「ああ、ゲームのいくつかは実際やったよ、懐かしいね」
「そりゃあ懐かしいさ、ホラーの大切な要素はノスタルジーだろ?(雑談ばかりなのに主要素がどうと言われても困る)……流石に笠井でもいくつかはやったんだな、そうだよなあ、まあ当然だろうね。(?)さっき挙げたのなんて、君の大好きだったゲーム実況文化が花開いた頃には耳タコってくらい皆やっていたしね。そういう、文化のメインストリートじゃないとこでさえ、ホラーってのはとっつきやすいものなんだ。
いわんやメインストリートをや。(妙な表現、彼にはどうも
ホラー小説もあるんだろ。俺はどうもキングぐらいしか知らんのだけど、君はなにか知ってるかい?(愚作者、本棚さえ持っていないぐらいだ、小説を読むなんてことはしないのである。いわんやホラー小説をや)え、読んだことがないのか、つまらんやつ。(ひとこと余計)
あとはテレビも昔は心霊モノはこの時期(今は七月初旬)になるとやるもんだった。
「俺はホラーが苦手だからねえ、どうにも……」
「君がホラー苦手とは、嘘をつくなよ。ひぐらし、うみねこやドキドキ文芸部なんかのホラーノベルゲーを君は好んでやっていたじゃないか」
あれはホラーじゃないと否定しようとしたが、ややこしくなり、彼と夜明けまで議論することになりそうなので黙る。
「とにかく、君に
ウホンと嘘くさい咳払いをすると、何をしくじったのか、本当にゴホゴホと咳き込む。ぜえぜえ言いながら、彼はようやくついに語りはじめた。
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